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第6話 心に灯るほのかな時間

 夕暮れ時。 勢いよくパン屋のドアが開けられ、みんな一斉にそちらに目を向ける。

「コルヴァンさん! どうしたんですか、そんなに息を切らして。 今お水持ってきますね」とミレナが厨房から水を持ってきた。

 おじさんもおばさんも他の客たちも何事?と言わんばかりの顔をしている。

「君の帰りが遅いから、何かあったんじゃないかと」

 きょとんとして目をぱちくりさせるミレナだったが心の奥がほんのり温かくなった。


「ごめんよ。 一言連絡入れればよかったね」とおばさん。

「いや、その……つい心配でな」

「ほら、あんた挨拶しないと」

「ん、ああ、いつもうちのミレナが世話になって」

「こちらこそ」

 おじさんおばさんとコルヴァンのぎこちないやり取りにクスッと笑い「もうすぐ終わるのでそこの椅子で待っててもらえますか」とミレナ。

「ああ」

「今日パンの注文が多くて、おじさんおばさん二人じゃ手が回らないから急遽私も手伝うことになったんです」

「そうか」


 後片付けをしに厨房へ向かうミレナ。

 椅子に座ってるコルヴァンのそばに子供が寄ってきた。

「ねぇ、お兄ちゃん魔法使いなの?」

「そうだ」

「魔法見たいな!」

「見せものではない」

「ほら困らせないの」と母親がなだめる。

「僕、お兄ちゃんが作った絵本持ってるよ。 誕生日にお母さんに買ってもらったんだ」

「そうか」

「すっごくきれいでわくわくするんだ!」と目をきらきらさせて話す子供に「そうか」と表情が和らぎ優しい声色で話すコルヴァン。


 その様子を陰からミレナとおじさんとおばさんが見ていて顔を見合わせてにっこりしていた。


 片付けが終わりミレナとコルヴァンが店を出ようとした時。

「これ持っていきなよ」とおばさんが野菜をくれた。

「わぁ! ありがとう!」と嬉しそうにお礼を言うミレナ。

「そんなゴボウみたいな体してちゃんと食べないとだめだぞ若僧」とおじさんが陽気にコルヴァンに言う。

「はあ」と素っ気ない返事をするコルヴァンにおじさんは「ミレナのことよろしく頼む」と頭を下げ、おばさんもそれに(なら)って頭を下げる。

「う、(うけたまわ)った」不器用に答えるコルヴァンの横でクスッと笑うミレナ。


 すっかり日が暮れ、薄暗くなった道を二人で歩く。

「……さっきの子、すごく嬉しそうでしたね」

 ミレナが思い出したように言うとコルヴァンは少しだけ頷いた。

「……ああ」

「本当に絵本のこと大好きみたいでした。 もっと自信持っていいと思います!」

 ミレナが笑顔でそう言うと、コルヴァンの表情が一瞬だけ和らいだ。

「そうか……」

 慣れない人混みに少し疲れたように見えた彼の横顔が不思議とやさしく映る。

 その姿にミレナは胸がきゅっと締めつけられるのだった。


「そうそう新作のパン、おじさんとおばさんに試食してもらったんです。 すごく美味しいって言ってくれて。 明日早速コルヴァンさんに持っていきますね」

「俺が最初に試食したかったな」

「え?」

「いや、その」

 口を押さえて顔をそらすコルヴァンの姿に柔和な笑みを浮かべて「じゃあまた新作を作ったときには必ずコルヴァンさんに一番に食べてもらいますね」と言うと「ああ」と顔をそらしたままでどんな表情をしてるかわからなかったが、彼が嬉しそうにしてるのが伝わってきてほっこりした。



◇コルヴァンside◇

 日が暮れる少し前。

 そういえばまだミレナが帰ってきた姿を見てないなと彼女の家の方を見る。

 絵本作りをしている時、作業部屋の窓からミレナが帰ってくる姿が見えるのだが今日はまだ見てない。

 作業に没頭しすぎて気づいていなかったのかも……と思い、ミレナの家をノックする。

 返事はない。

 一気に不安が募りあれこれ考えるよりも体が動き全力疾走する。


 その様子を大きな木の上から見下ろす一人の男。

 銀髪の長い髪が風に揺らぐ。

 眼差しは静かに穏やかで、まるで弟子の成長を確かめるかのように柔らかく細められていた。


 店に着き、話を聞いて急遽手伝うことになったミレナに安堵した。

 片付けが終わるまで待っている間、店内を見渡してふと町長が言っていたことを思い出す。


「ミレナはパン屋に置き去りにされた子なんだよ」


 さぞ心細かっただろうに……。

 店の隅っこで泣いていた幼いミレナを想像すると胸が締めつけられた。

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