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第5話 雨音に寄り添って

 いつものようにパン屋にデニッシュを配達に来たミレナ。

「おばさん、ちょっと相談いい?」

「ん? なんだい?」おばさんはミレナに頼ってもらえるのが嬉しくてにこりと口元が緩んだ。

「コルヴァンさん、私に家を与えてくれたばかりかデニッシュを作ってもらってるからってお給料までくれたの」

「へぇ〜そりゃ律儀だねぇ」

「でね、申し訳ないから絵本作りを手伝いたいって言ったんだけど断られちゃって……でも他に何かできることないかなって」

「そうだねぇ……新作のパンを作ってみたらどうだい?」

「パンばかりで飽きないかな」

「あれから一ヶ月、デニッシュを届けつづけて別にクレームとかはないんだろ?」

「うん」

 少し考えて初日にデニッシュを届けてすぐに食べていたコルヴァンの姿を思い出し「やってみる!」と言い家に帰ることにした。


「(今の時期だとイチジクとか桃が旬よね)」

 旬の果物を使ったパンを作ろうと考えながら歩く。

 コルヴァンの美味しそうに食べる姿を思い浮かべて顔が綻んだ。

「(コルヴァンさん喜んでくれるかな)」

 そう思うだけで胸が温かくなる。


 すると雨が降ってきた。

「うそ! 傘持ってない!」

 なんとかずぶ濡れは免れて木陰で雨宿りすることにした。

 しばらく止みそうにないなと思いながらぼーっとしていると前方から人が走ってくる姿が見えた。

「コルヴァンさん!?」

 コルヴァンが迎えに来たのだ。

「よかった。 濡れてはいないな」

「どうして」

「雨が降ってきたから君が濡れてはいないかと」

 咳払いして少し照れた様子で「いいから帰るぞ」

 なんだかその姿にほっこりして「はい」と嬉しそうに答えるミレナ。


 二人で一つの傘に入ると自然と肩が触れ合う。

「せ、せまいですね」ミレナが小声でつぶやく。

「……これ以上離れたら濡れる」コルヴァンは視線を前に向けたままわずかに眉を寄せる。

 耳までほんのり赤くなっているのをミレナは見逃さなかった。


 雨音が静かに傘を叩き二人の歩幅が少しずつ揃っていく。

 ミレナは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

「(こんな時間も、悪くないな……)」


 家に着き、ありがとうございますと言おうとしたら「ちょうどさっきアップルティーを淹れたところなんだ。 暖まっていくといい」

「はあ」びっくりしつつもコルヴァンとの距離が縮まっていくようで嬉しくておじゃますることにした。


 温かいアップルティーを飲んでほっと一息つく。

 ミレナは思い切って切り出すことにした。

「あの、新作のパンを作ろうと思うんです。 その、デニッシュばかりじゃ飽きるかなって」

「別に飽きてはいない。 しかしそうだな……」

 コルヴァンは顎に手をやり少し考えたあと「では新作のパンお願いしようか」

「はい! 喜んで!」

「新作といえば君に渡したいものがある」

 ?と首を傾げるミレナの前で指先を作業部屋へ向け一冊の絵本を引き寄せるコルヴァン。

「作ってみた」

 渡された絵本を開くと「わぁ!」

 それは飛び出す絵本だった。

「すごいきれい! まるで別世界に連れていってくれるみたい! ありがとうございます!」

 素敵な絵本をもらい俄然やる気を出したミレナは早速新作のパン作りに取り掛かろうと、微笑むコルヴァンを背にして自分の家に帰った。



◇コルヴァンside◇

 いつものように絵本を作るコルヴァン。

 すると雨音に気づく。

「(そういえば傘持ってなかったな)」

 今朝デニッシュを届けにきたミレナのことを思い出し迎えに行くことにした。

 町の方へ行くのはこれが二度目だった。

 木陰で雨宿りしてるミレナを見つけ、濡れていないことに安堵して傘に入れる。


「(近いな)」

 もう一つ傘を持ってくるべきだったか……と慌てて出てきたことに後悔する。

「(まあ、魔法で出せなくもないが)」

 そのときコルヴァンの頭によぎったのは師匠の言葉だった。


「むやみやたらと人間に魔法を使うものではないよ」


 ミレナとの距離が近くて耳が熱くなってくる。 


 家に着いて自分の家に帰ろうとするミレナを引き止めるように「ちょうどさっきアップルティーを淹れたところなんだ。 暖まっていくといい」と自分でもびっくりするくらいの言葉が出てきた。


 なにを話したらいいかわからず黙っていると、アップルティーを飲んで落ち着いたミレナから新作のパンを作りたいとの申し出が。

 絵本作りの手伝いを断り彼女を落ち込ませてしまったことが気がかりだったが、少しでも役に立ちたいとの彼女の思いを汲んで「では新作のパンお願いしようか」と言うと「はい! 喜んで!」ときらきらした笑顔を見せるミレナにコルヴァンは胸が熱くなった。


 悟られまいと「新作といえば」と話題を変えてミレナのために作った飛び出す絵本を渡す。

 するとさらに弾けんばかりの笑顔のミレナに目を奪われた。

 早速新作のパンを作ろうとやる気に満ち溢れて帰っていくミレナを微笑ましく見送った。

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