第4話 手を伸ばしたくなる気持ち
次の日。 気持ちを切り替えたミレナはコルヴァンにデニッシュを届けた後、パン屋に配達に来ていた。
「おばさん、昨日はかぼちゃのパイありがとう。 とっても美味しかった」
「よかった。 なにか不便なことはないかい?」
「あの魔法使いに意地悪でもされたらすぐ言うんだぞ」と厨房からおじさんも出てきた。
「意地悪だなんて。 そうそう、魔法使いさんに、コルヴァンさんにね、絵本をもらったの」
「「絵本?」」
おじさんもおばさんも顔が一気に??になった。
「その絵本がね、すごくきれいで惹き込まれてとっても優しい気持ちになれるの」
「へぇ〜、魔法使いが作る絵本ねぇ」とおじさんもおばさんも興味津々だ。
するとパンを買いに来ていた子供たちが寄ってきて「あの魔法使いさん、絵本作るの?」
「見てみたい!」
早速ミレナの家で絵本の読み聞かせをすることにした。
ミレナの家。
「わぁー!」ページをめくると子供たちの目は一瞬にして絵本の世界の虜に。
きらきらした子供たちの目を見ていたミレナは、こんなに人を感動させられるものを生み出せるなんてコルヴァンさんはすごい!と尊敬する気持ちが芽生えた。
次の日の朝、コルヴァンにデニッシュを届けに行った。
「あの、昨日子供たちにコルヴァンさんの絵本を見せたんです。 そしたらすごく感動しててなんだか私まで嬉しくなっちゃいました」と照れくさそうに笑って話す。
コルヴァンは「そうか」と相変わらず素っ気ない返事。
ミレナと子供たちの口コミによりコルヴァンの絵本が評判になり、最初は魔法使いが作る絵本に興味がありながらも手に取るに取れない人たちが買うようになった。
一ヶ月ほど経った頃。
コルヴァンがミレナの家を訪ねてきた。 引っ越してきて以来初めてのことだ。
「給金だ」
「え」
それはコルヴァンからミレナへのお給料だった。
「毎日デニッシュを作ってもらってタダというわけにはいかないからな」
「そんな、家まで与えてもらった上にお給料だなんて」
「気にするな」
しばし黙考したミレナはいい案を思いつく。
「じゃあコルヴァンさんの絵本作りを手伝わせてください」
驚きの表情を見せるコルヴァンに決意を固めた目を向けるミレナ。 しかし……
「これは君が関わることではない」と言い自分の家に帰っていった。
ミレナはリビングのソファに座り手を膝の上に置いたままじっと考えた。
「私になにかもっとできることはないのかな……」
ぽつりと落ち込む気持ちを抱えていると玄関の方からノック音が聞こえた。 ドアを開けると町長だった。
「こんにちは」と明るく挨拶をしたつもりだが「ん? なにかあったか? 表情が暗いぞ」
「え、わかるの?」
「話してごらん」
町長の優しさに甘えて先ほどのコルヴァンとのやり取りを話す。
「君が関わることではない、か」
しゅんと俯くミレナに町長は少し沈んだ声で言った。
「コルヴァンの絵本作りは罪の償いなんだよ」
「……罪?」
問いに対して町長はそれ以上を語ろうとはせず瞳に一瞬痛みのような影が走った。
その姿を見ながらミレナは胸の奥にほんの小さな違和感と切なさを感じた。
コルヴァンに何か深い事情があるのかもしれない――そんな予感が心をかすめた。
町長が帰った後、そっと目を閉じ深呼吸して自分になにかもっとできることはないかと再び考え始めた。
◇コルヴァンside◇
あんな顔させるつもりはなかったのに……。
絵本作りを手伝いたいと言うミレナの申し出を断ったときのことを振り返るコルヴァン。
「君を巻き込みたくない。 君には笑っていてほしいんだ」
ふとミレナが子供たちに絵本を見せたときの嬉しそうな顔を思い出す。
そしてミレナにあげる新作の絵本作りに取り掛かった。
誰かのために何かをしてあげたいと思ったのはこれが初めてだった。
今はその気持ちがなんなのかわからずただただ絵本作りに没頭した。