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【完結】魔法使いと隣のパン屋さん  作者: 禾乃衣


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第26話 雪舞う夜に、温かな贈り物

 窓の外にひとひら雪が舞い降りた。 ミレナは思わず息をのんだ。

「(もうすぐ完成するって言ってたなぁ)」

 先ほど一緒に夕食をとったときの会話を思い出す。

 コルヴァンが作業に集中したいと言ってから一週間が経った。


 翌朝。 コルヴァンがミレナのところへ来て「作業は無事に終わった。 今日からいつも通り一緒に絵本作りの再開だ」と言いコルヴァンの作業部屋で絵本を作ることに。

「あの、作業お疲れ様でした。 大変でしたよね。 一人で」

「いや、まったく大変ではなかった」と心なしかコルヴァンの口元が笑っているように見えた。

「(出来栄えがよかったのかな)」と思い「どんな絵本なんですか?」と思い切って聞いてみた。

「ん?」

「なにか特別な絵本を作ってたのかなって」

「ん、ああ、そうだな……特別だが絵本ではないな」

「(コルヴァンさんて絵本以外も作るんだ……じゃあどこに納品するんだろ)」

 コルヴァンの嬉しそうな横顔を見ていたら、聞いてみたい気持ちが薄れて「(コルヴァンさんが満足してるならいっか)」と穏やかな空気の中、自分の作業を続けることにした。


 それから二日後のことだった。

 昼食が終わると「ミレナ、今日の作業はあとは俺がやる。 7時に俺のところに来てくれないか」とコルヴァンに言われ「……はい」と答えると彼はいそいそと自分の家に帰っていった。

「(なんかすごく嬉しそう……)」

 コルヴァンから漂う嬉しいオーラを感じたミレナ。


 そして夜7時。 コルヴァンの家のドアをノックする。

 案内されて中へ入るとテーブルを見て驚く。

「どうしたんですかこれ」

「俺が……作った」

 焼き立ての丸鶏のロースト、根菜と豆のポタージュ、彩り野菜のサラダなどなど、ご馳走がずらりと並べられていた。


 椅子に座り、一品一品を見てコルヴァンの気持ちが伝わり自然と笑顔があふれた。

「すごい……」

「食べようか」


「わぁ……このポタージュ、とろっとしてて温かい」

 スプーンですくって口に運ぶたび、ほっとする味に思わず目を細めた。

「サラダもシャキシャキ……ドレッシングも最高ですね」

 一口食べるごとにコルヴァンの丁寧な手仕事が伝わってきて胸がじんわり温かくなる。

「うぅ、お肉ジューシーです」

 ナイフを入れるたびに肉汁があふれ、香ばしい香りが鼻に抜ける。


 美味しそうに食べるミレナを見て微笑むコルヴァン。

「……コルヴァンさん、すごい」

 思わず小声で言うと、彼は照れくさそうに少し笑った。

「喜んでもらえてよかった」

 その声にミレナの頬も自然と赤くなる。

 静かな部屋の中、雪が窓の外でちらちらと舞う。

 二人だけの温かい時間がゆっくりと流れていった。


 食事が終わり紅茶でひと息吐く。

「すごく美味しかったです。 でもなんか、すみません」

「なぜ謝るんだ」

「大変な作業が無事に終わったからお疲れ様って感じのご馳走なんですよね。 私が作ればよかった……ごめんなさい、気づかなくて」

「ん」

「え?」


 しばし沈黙する。

「すまない、言い忘れていた…… これは君の誕生日をお祝いするパーティーだ」

「えっ……えぇ!?」

 頭を抱えるコルヴァンを見て「コルヴァンさん、顔上げてください」と言いソファでコルヴァンと向き合う。

「ほんとにありがとうございます。 私幸せです」と笑顔になる。

 その言葉にようやく顔を上げるコルヴァン。

「そうだ、渡したいものがあるんだ」と彼はそう言い作業部屋から紙包みを持ってきた。

 黄色い花柄の紙包みに赤いリボン。

「誕生日プレゼントだ」

「え……ありがとうございます」

 早速開けてみるとおしゃれな彫刻デザインの木箱が。

 中を開けるとネックレスだった。

「わぁ……きれいな色……」

 それは黄色やオレンジやピンクが混ざり合ってふんわりとぼかした温かな色合いをしていた。


「改めて、誕生日おめでとう」

「ありがとう、ございます」涙ぐむミレナ。

「もしかして、一週間このネックレスを作ってたんですか?」

「そうだ。 エルマンさんに魔宝石を調達してもらい形を整えて君の好きな色を入れたんだ」

「魔宝石……」


 ミレナが宝石を手に取るとほんのり温かく柔らかな光が指先に伝わった。

まるで心まで優しく包まれるような感覚に思わず息をのむ。

「……不思議、あったかい……」

「この魔宝石は、身につけていると心がほっとする。 俺の気持ちもそっと君のそばにあるように」

「え……そっと……?」

 コルヴァンが微笑むとミレナの胸までぽかぽかと温かくなる。

「離れていてもお互いを感じられる。 君が安心できるように、そして俺が君を思う気持ちを近くに置いておけるように」


 ミレナは涙ぐみながら、そっと首にネックレスをかけた。

「……コルヴァンさん、ありがとうございます……」

 嬉しい気持ちがあふれて手が震えると、コルヴァンの顔がそっと近づく。

 そのまま額に優しいキスを受けた。


 温かさが宝石の柔らかな光と重なり、胸いっぱいに広がる。

 心臓の高鳴りは、言葉にできない想いを二人の間にそっと紡いだ。


 雪が静かに舞う窓の外。

 柔らかな光の中で二人だけの時間がゆっくりと流れていく。

 魔宝石の光はこれからの毎日をほんのり照らし、二人の未来を優しく包むかのようだった。


 ミレナはそっと目を閉じ、コルヴァンの温もりと気持ちを感じながら胸の奥で幸福が満ちていくのを感じた。

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