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【完結】魔法使いと隣のパン屋さん  作者: 禾乃衣


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第22話 朝の光とデニッシュ

 朝。 目が覚めるとそばにはコルヴァンが眠っていた。

 寝顔を見てほっこりする。

 ふと昨日のことを思い出す。

「(このままリディアさんとギクシャクしたままじゃなんかやだな……)」


 そう思いながらそっと布団を抜け出そうとした時――

「……どこに行く」

 寝ていると思ったコルヴァンが低い声で問いかけてきた。

「えっ、起きてたんですか!」

 慌てて振り返ると薄く目を開けてこちらを見ている。

「具合はどうだ」

「だいぶ楽になりました」

 そう言うと彼は少しだけ安心したように瞼を閉じる。

「無理するな。 まだ休んでいろ」

「……はい」


 とは言ったものの目は完全に覚めてしまい休めない。

 ぐぅ〜とミレナのお腹が鳴り「うわぁ、すみません」

「そういえば昨日はなにも食べずに寝たな。 朝食にするか」

「はい」


 コルヴァンが作ると言うがミレナも手伝いたくて二人でキッチンに立つ。

「食パンあるのでフレンチトーストにしましょう」

 コルヴァンが野菜を切りサラダを作り紅茶を淹れ、ミレナがフレンチトーストを作る。

 食卓に座り二人で静かに食事をする時間は昨日の騒動を忘れさせるほど穏やかだった。


 食事が終わると後片付けも二人で手分けして進める。

 食器を拭いて一段落すると「ミレナ」コルヴァンの方を向くと切ない目をしていた。

「昨日は怖い思いをさせてしまってすまない」

「コルヴァンさんのせいじゃ……そういえば空が暗くなったと思ったら明るくなって霧がすぐなくなって……あれはコルヴァンさんの魔法?」

 コルヴァンが答える前に玄関のドアのノック音が聞こえた。


 開けるとリディアとリオネルだった。

 リディアは少し気まずそうに肩をすくめる。

 ミレナは微笑みながら言った。

「リディアさん、来てくれたんですね」

 リディアは小さな声で、でもしっかりと謝る。

「ごめんなさい……昨日は意地悪してしまって」

 ミレナは優しく頷く。

「大丈夫です。 もう気にしてませんよ」


 コルヴァンは少し微笑み、リオネルはほっとした表情を見せる。

 朝の光が差し込む部屋でぎこちないけれど温かい空気が流れた。


「それにしても感激だなぁ〜」

 リオネルの朗らかな物言いに3人は「ん?」となる。

「あの有名なノヴァ家の方にお近づきになれるんなんて――」と言いかけたときリオネルはコルヴァンに外へ連れ出された。


「あの二人は気にしないで。 それよりミレナ、私あなたのパンが食べたいわ!」

「じゃあ一緒に作りましょうか!」


 シナモンのデニッシュを作ることに。

「昨日帰った後、リオネルがデニッシュ美味しかった〜って自慢するものだから私も食べたくなっちゃった」

 ミレナはクスッと笑いながら材料を混ぜる。

 リディアの笑顔が戻って胸がほっと温かくなる。


 発酵時間中、コルヴァンとリオネルが戻ってきた。

「なになに、パン作ってるの? 僕の分もある?」

 リオネルが無邪気に目を輝かせる。

「はい、ちゃんとありますよ」とミレナ。

 焼きあがる甘い香りの中、ミレナはコルヴァンの穏やかな横顔を見て微笑んだ。

 その目に映る朝はなにより眩しくて優しかった。



◇コルヴァン・リオネルside◇

「うわぁっ」リオネルは驚きの声を上げながら強く腕を引かれて庭に連れ出される。

「ノヴァ家のことは口にするな」コルヴァンの低く厳しい声にリオネルは少しおどおどする。

「……つい……ごめんなさい。 でもミレナちゃんは? 知らないですよね」

「ミレナには一族のことは関係ない。 俺は追放されたも同然だ。 もう向こうに帰ることはない」

「あなたがここで絵本作りをする理由は? あなたほどの魔法使いがこんなところにいるなんてもったいない」

 コルヴァンはふぅと息を吐き「友達に……友達だと思ってた奴に裏切られて嵌められて罰を受けることになったが師匠の温情でこうして人間の世界で絵本作りをすることで罪を償うことになった」

「ちなみにその師匠とは」

「アルディスだ」


 リオネルは驚きのあまり唖然とした。

「アルディス・ヴァレンティナ……あの伝説の魔法師の?」

「そうだ。 彼のおかげで俺はここでの生活を許されている」

「すごい……それにしてもあなたがあんな力を持っているなんて……」

「力はただの道具だ。 大切なのはどう使うかだ」


 リオネルは黙って頷きながらコルヴァンの真剣な横顔を見つめる。

「……ミレナちゃんは本当に幸せ者だな」ふっと目を細めて笑い意を決したように「コルヴァンさん! 僕はあなたをリスペクトします!」と身を乗り出して言う。

「は?」

「師匠と呼ばせてください!」

「俺は弟子はとらない」

「そこをなんとかぁ」

「断る」


 弟子にしてもらうことは叶わなかったがリオネルはこれからもミレナとコルヴァンを見守ることにした。

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