第2話 ちょっと不思議な隣人生活の幕開け
魔法使いコルヴァンの家の隣に引っ越しを決めてから一週間。
「一週間後に来てくれ」と言うコルヴァンの言う通りにとりあえず必要なものだけをまとめて行くことに。
到着するとコルヴァンの家の隣に家が建っていた。
クリーム色の壁にブラウンの可愛らしいドア。
コルヴァンに案内されて中に入ると、パンを焼く石窯があった。
「こんな素敵なキッチンでパンを作れるなんて」と感激のあまり思わず心の声が漏れる。
「なにか必要なものがあれば言ってくれ」
「今は大丈夫です」
「毎朝俺のところにデニッシュを届けるように。 それ以外は自由にしてていい」
「(契約条件はデニッシュ……まあそれが一番の目的なのよね彼は)」
そう言い残すとコルヴァンは自分の家に帰っていった。
ミレナは寝室に荷物を置いて勢いよくベッドにダイブ。
「(まさか魔法使いさんの隣がこんな可愛いおうちだなんて……私、いきなり異世界パン屋の主人公?)」
最初は不安がありつつも心優しいパン屋の夫婦や町長、町のみんなに見送ってもらい可愛らしい家に住めることになり段々と新生活に期待を膨らませていった。
次の日。 朝日が差し込むキッチンでデニッシュを焼く。
いい出来栄えに我ながら満足して笑みがこぼれる。
店用とコルヴァン用に分けて包む。
「(パン屋にパンを配達って変な感じ)」とクスッと笑い配達に向かった。
◇コルヴァンside◇
作業部屋でもくもくと絵本を作っていると朝日が差し込んできたことに気づく。
窓を開けると隣の家からパンの匂いが漂ってきた。
無愛想な顔で「……悪くない」とつぶやく。
ドアのノック音がして開くとミレナがパンを運んできた。
「お約束のデニッシュです」
「うむ」
コルヴァンは待ちきれずその場でパンを一口。
目の前でびっくりしてるミレナに見向きもせずまるで至福の時を楽しむかのように食べる。
じーっと見てるミレナの視線にハッと我に返り「美味い」と一言。
「よかったです」と満面の笑みを見せるミレナにコルヴァンの目は奪われた。
「これからパン屋にこれを届けに行くので失礼します」とぺこりと頭を下げ行こうとしたときミレナの足が躓く。
コルヴァンはミレナの片腕をつかみ転ぶ寸前でとめられたことに安堵。
「危ないだろ」と無表情で言いすぐに腕を離し自室に戻った。
その後絵本作りを再開するが頭の中にはミレナの満面の笑みと細い腕の感触が残って「毎朝来るのか……」とつぶやき戸惑いながらも口元は少し緩んでいた。