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【完結】魔法使いと隣のパン屋さん  作者: 禾乃衣


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第15話 星空の下、二人の想い

「(そろそろ冷えてるかな)」

 パスタとスープがちゃんと冷えているか確認すると早速コルヴァンの家に持っていった。


「あの、これよかったらどうぞ」

「ああ、ありがとう」

「ん〜いい匂いだねぇ〜」とアルディス。

「アルディスさんもよかったら」

「いいのかい? そうだ、ミレナちゃんも一緒にどうだい?」

 突然のミレナちゃん呼びに胸がぽっと温かくなり「はい! 喜んで!」と言い自分の分を持ってきた。


 コルヴァンの家のダイニングテーブルに笑顔の花が咲く。

 食べ終わった後コルヴァンが紅茶を淹れる。 湯気の立つ香ばしい紅茶がティーカップを満たしていく。 ふっと心が和む香りに場の空気が和らぐ。


「あの、絵本作り忙しいですか? 今朝のコルヴァンさんの様子が気になって私……」

 小さくぷっと笑うアルディス。 その視線にコルヴァンが気まずそうに咳払いをして「心配ご無用だ」

「大丈夫なら良かったです」とほっとするミレナ。


「……少し散歩でもしないか?」

 予想もしない誘いに一瞬驚くが「はい」と快く答えた。

 笑顔で手を振り「夜道に気をつけるんだよ」と言うアルディスに見送られて散歩に出かける。


 夜風が頬をなで、空を見上げれば満天の星。

 宝石を散りばめたような光がきらめいている。

「きれいだ……」とつぶやくコルヴァンの横顔に見惚れるミレナ。

「ミレナ」コルヴァンの顔が引き締まり真剣な声になる。

「俺はこの町に来てから本当に救われたよ……まあ最初は君を驚かせてしまって……あの時はすまなかった」

「いいですよ。 でもほんとに驚きました」と懐かしむようにクスッと笑う。

「君が作るパンはどれも美味しい。 毎日でも食べたい」

「毎日食べてるじゃないですか」

「ああ、そうだな……いや、その」と顔を少々赤らしめるコルヴァンを見て首を傾げる。

「俺のためにパンを焼いてくれ」

「毎日焼いてますよ」

 冗談めかした返しにコルヴァンは首を横に振る。

「違う……俺だけのために、だ」

 その言葉にミレナは息を呑む。 手が小さく震え胸が高鳴るのを感じた。

 夜風が二人の間をすり抜け星の光が沈黙を照らす。

 コルヴァンは真っすぐにミレナを見つめて――

「好きだ!」

 突然の告白に目を見開くミレナ。

 風の音も星の瞬きもすべてが止まったかのように感じられた。

「……え、今なんて」

「君が好きだ。 ずっとそばにいてほしい」

 視線が絡んで心の奥に温かいものが広がっていく。

「……私も」

 ミレナは震える声で笑みを浮かべた。

「私も、コルヴァンさんのことが好きです」


 その瞬間、二人の距離がふっと近づいた。

 星空の下、互いの想いがようやく一つになったのだった。


 二人はしばらく見つめ合ったまま微笑む。

 心地よい夜風が吹き、町の灯りが遠くで柔らかく揺れる。


「……帰ろうか」

「はい」

 ゆっくり歩き出す二人の間に静かで満ち足りた空気が流れる。

 手が自然と触れてやがて優しく握り合う。

 互いの存在がこんなにも大切だと実感できる夜だった。


 家に帰りアルディスに伝えるコルヴァン。

 ミレナは彼の横で顔を赤くして俯いていた。

「ミレナちゃん、顔を上げて」と穏やかな声色で言うアルディスを見る。

「コルヴァンを好きになってくれてありがとう。 これから大変なこともあるかもしれないがこの子のこと、支えてやっておくれ」

「はい」と笑顔で答えた。


 あ……と思い出したミレナは「コルヴァンさん、さっき、俺だけのためにパンを焼いてくれって言ってましたけどそれは無理です。 町のみんなだって楽しみにしてくれてるんだから」

「ああ、それはあの時君になかなか伝わらなかったからついそんな言い方を……すまない」

 しゅんとするコルヴァンを見てクスッと笑うミレナ。

 これから彼のいろんな顔を見られるんだな……ずっとそばで……と思うと愛おしくなる。


「おやすみなさい」と言い自分の家に戻り先ほどまでの出来事を振り返り、言葉にならない想いが溢れてほんのり赤く染まった頬を両手で伏せる。

 明日もあなたに美味しいパンを届けよう。

 一日一日を大切にしようと心に決めるミレナだった。

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