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【完結】魔法使いと隣のパン屋さん  作者: 禾乃衣


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第14話 想いの先 微かな覚悟

 玄関のドアを背にして首を傾げるミレナ。

「(さっきのコルヴァンさん、様子が変だったな……)」

 つい先程のコルヴァンとのやり取りを思い出す。

 パンを受け取るときにあからさまに目をそらしどこかよそよそしいというか、早く帰ってオーラがどことなく醸し出ていたような気がした。


「(忙しいのかな……そういえば昨日ルーカスと一緒におじゃましたとき完成した絵本がないって言ってたな)」

 よし! と気合いを入れたミレナはコルヴァンのために美味しいものを作ろうと町まで買い出しに行くことにした。


「(じゃがいもの冷製スープはどうかな。 今の時期に合うかも)」

 トマトとバジルの冷製パスタも作ろうと材料を買い花屋を通ると――

「ミレナちゃん」と花屋のお姉さんが声をかけてきた。

「エリサさん、こんにちは」

「じゃがいも重くない?」

「なんとか大丈夫です」

 一人分にしては多すぎなじゃがいもを見たエリサは「もしかしてコルヴァンさんに作ってあげるの?」

「えっ、あ、はい」と照れて俯くミレナにクスッと笑うエリサ。

「いいわねぇ。 恋人に料理作るのって。 キュンキュンしちゃう」

「えっ!? こ、恋人だなんて」と慌てるミレナに「あら違った? てっきり両思いなのかと」

「そ、そんなんじゃ」と言いぺこりと頭を下げ走って行った。

 そんなミレナを見ながらエリサは「お似合いだと思ったんだけどな」とぽつりと呟いた。


「(両思いって……そりゃあなれたら嬉しいけど……)」

 いずれ想いを伝えようとは思っているが考えるだけでドキドキしてくる。

 首をぶんぶん横に振り、絵本作りで忙しくしてるコルヴァンのことを想いながら「(美味しいの作らなきゃ!)」と気持ちを切り替えた。


 キッチンに立ち早速料理に取り掛かる。

 手際よくじゃがいもを切ったりパスタを茹でたり――

 出来上がり粗熱が取れたら冷蔵庫へ。

「(夕食までには冷えるかな)」


 ミレナは眠くなり部屋で昼寝をすることにした。



◇コルヴァンside◇

 コルヴァンは昨日のことを思い出していた。

 ミレナと一緒にいた友達という男のことを……。

 胸のざわつきを必死に顔に出すまいと平常心を保とうとしても微かに背筋が伸びる。 目の前で二人並んで作りかけの絵本を見ている。

 胸のざわつきはこれまでにないほど大きく膨らみコルヴァンは思わず軽く息を呑む。

 てっきりミレナの家に寄るかと思ったが帰ると言うルーカスの言葉に安堵した。


 翌朝。 ミレナがパンを届けに来た。

 パンを受け取りミレナと目が合った瞬間心臓が跳ねる。

「(なんでこんなに胸がざわつくんだ……)」


 昨日ルーカスと一緒に来ていたときは平静を保てたはずなのに、今目の前にいるミレナの笑顔や小さな仕草に思わず呼吸が乱れる。

 手渡されたパンの袋を握る手もほんの少し震えていることに気づきすぐに俯いた。

 昨日のことがどうしても頭から離れずミレナと目を合わせられなかった。

 

 ミレナが家に戻ったあと「初々しいねぇ」とアルディス。

 振り向くとなにかを見透かしてるように笑っている。

「なんだよ」

「昨日お嬢さんと一緒に来たあの青年のことが気になるんだろう?」

「別に」とそっぽを向く。

「そういえばその前の日も来ていたな。 陰からお前たちのことを見ていたよ」

「なんでその時来なかったんだ」

「それは……来づらかったんじゃないかな」

「なんで」

 アルディスは頭を抱えてはぁと息を吐き「楽しそうに出てくるお前とお嬢さんの間に入りづらかったんだろう」

「それって……」

 コルヴァンはようやく気づいた。

 ルーカスはミレナのことが好きなんだと……。


 とその時町の方まで行くミレナの姿が窓から見えた。

「(もしかしてルーカスのところへ……?)」

「そんなに気になるなら行ってみればいいじゃないか」とアルディスは言うが、今追いかけても上手く話せる自信がない。

 このモヤモヤした気持ちを整理しようと作業部屋にこもった。


 絵本を作りながら思う。

 ミレナの声、香り、動き――すべてがこれまでにないほど鮮明に胸の奥を熱くする。


「(これはもう……認めるしかないな)」

 目を閉じ口元が緩む。

 今まで、魔法使いと人間だからと心のどこかで線を引いていた。

 ミレナを困らせてはいけない。 彼女を笑顔にしたい 。

 これからもずっとそばにいれたら――


 作業部屋から出ると「整理はついたかい?」と問うアルディスに穏やかな声で「ああ」と答える。

「コルヴァン、人は隣に誰を置くかでその後の歩みが決まるものだ。 お嬢さんを、ミレナちゃんを大切にするんだよ」

 まるで我が子を見るような優しい眼差しで言うアルディス。

 こくりと柔和な表情で頷くコルヴァン。

 その目には優しさが滲み出ていた。


 町から帰ってくるミレナの姿が窓から見えた。

 買い出しに行ってきたようだ。

 しばらくするとミレナの家からいい匂いがしてきた。

「ん〜いい香りだ。 食欲をそそるねぇ。 もしかしてお前に作ってたりして」とアルディス。

「まさか」と言いつつも期待してしまう。


 そして夕食時。

 玄関のドアのノック音がした。

 ミレナがパスタとスープを作って持ってきてくれて胸の奥がじんわり温かくなった。

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