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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第三節 機械人の叫び 4

「僕は、その……純複製型機械人間なんですよ」


 司書は、どこか達観したような微笑を浮かべた。


 レオは一瞬、言葉を失った。


「……生まれて初めて会いました。珍しいですね」


「もともとは、現生人類だったんです。二十歳の頃、交通事故に遭って……肉体は死にました。でも、両親がどうしても僕を失いたくなかった。それで、自我を完全人工脳へと移植して――こうなりました」


 それは、本人にとって望まぬ変化だったのだ。


 レオは知っていた。純複製型たちが、いかに理不尽な差別を受けてきたか。その事実を前にすると、思わず胸が締めつけられた。


「……大変でしたね」


「正直に言えば、事故の後は、あのまま死なせてくれた方がよかったと、何度も思いました。友人は次々と離れていきました。機械の身体になっても、機械人類の輪には入れない。生身の人間でもなく、優れた機械でもない。宙ぶらりんでした」


 司書の言葉は淡々としていたが、その静けさの裏には深い苦悩が宿っていた。


「僕の脳は機械でできていても、構造は人間とまったく同じです。だから感情も、痛みも、思考の癖も、人間と変わらない。生きていれば、その事実をひしひしと感じる瞬間があります。機械人類になれば、確かに差別は受けなくなります。でも、僕は……人間でなくなるのが怖かった。変な話ですが、僕たち純複製型は、身体だけが金属に変わった人間なんです」


 彼の語る「人間でありたい」という苦しみは、機械の理屈では割り切れない、哀しみに満ちていた。


 レオはその言葉を聞きながら、思った。


 自我を移植しようと、機械の身体を持とうと、人間と機械の間には、越えられない何かがあるのかもしれない、と。


「でも、もう、受け入れました。諦めたんです。このままで生きていこうって。変えられない現実なら、付き合うしかないですから。今は、似たような連中――純複製型の仲間たちと集まって、まあ、それなりに楽しくやってますよ」


 そう言って、司書はふと、レオの目をまっすぐに見た。揺らぎのないまなざしだった。そこには羨望も、嫉妬も、憐憫もなかった。ただひとつの、澄み切った信頼だけが宿っていた。


「大川戸さん。あなたは、四種の人類の架け橋になれる存在です。僕は信じています。あなたがきっと、人類の共存共栄の道を切り拓いてくれると。……境界に生きる者として、あなたに未来を託します」


 その言葉が、レオの胸の奥深くに、静かに、しかし確かに沁み込んでいった。まるで遠い昔に忘れ去っていた何かを呼び起こすように、心の奥底を揺らした。


 レオは答えられなかった。言葉が、出なかった。


 胸の内に込み上げてきたのは、重みだった。責任という言葉では到底言い表せない、存在そのものを圧迫するような重み。それは、彼が自分自身のルーツに向き合い始めて以来、常にどこかで感じていた、形のない圧力と同質のものだった。


 自分は、何者なのか。


 人間なのか、人間ではないのか、4つの人類種に属さない新たな存在なのか。


 そして――そのような存在である自分に、未来など託されてよいのか。


 だが、司書の言葉には、確かな覚悟があった。


 自らの存在を受け入れ、その不完全さすら肯定し、なおかつ他者に希望を託すという、生半可ではない決意が。


「それでは、失礼します」


 司書は本の整理に戻っていった。その後ろ姿は、どこか孤独で、けれど力強かった。


 レオは、ただ静かに、図書館の回廊を歩きながら、胸の内に芽生えつつある思いを見つめていた。


――自分にできるだろうか。


――四種の人類の架け橋として、何かを成すことが。


 明確な答えはまだなかった。だが、司書の言葉が与えてくれたのは、「できる」という根拠のない可能性ではなく、「そうであるべきだ」という未来の輪郭だった。


 図書館の自動扉が静かに開き、レオは冬の冷気をまとった外へと一歩を踏み出した。


 白く煙る吐息の中、彼はふと空を見上げた。


 灰色の空の向こうに、かすかに青が見えた。


 その色はどこか、あの司書の目の色に似ていた。


 レオは歩き出した。


 まだ道は見えていなかったが、進むべき方向だけは、たしかに胸に刻まれていた。

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