第二節 意味を探す者たち 1
翌朝。研究棟のカフェテリアは、やや青みがかった白色灯に照らされていた。窓の外では、人工気候制御によって枯葉がゆるやかに舞っている。気象システムが外部と切り離されて久しいこの都市において、秋の風情もまた、ただの「演出設定」に過ぎなかった。
レオは湯気の立つカップを手に、無言のままテーブルについた。昨日の出来事が頭から離れない。篁ミナト――主任研究員にして、第二研究ブロックの統括責任者。その肩書以上に、彼女の言葉が脳裏に残っている。
周囲には同じ研究者たちがちらほらと集まり、それぞれの端末に視線を落としたり、小声で言葉を交わしていたりした。
「失礼――君が大川戸レオ博士、だね?」
落ち着いた声が肩越しに届いた。振り返ると、細身の男性が柔らかい笑みを浮かべて立っていた。年齢は三十代半ば、知的な眼差しに、どこか物腰柔らかな雰囲気が漂っている。
「ケイ・イノセといいます。研究戦略部門から来ています。聞いてると思うけど、君の指導担当を任されているんだ。昨日は不在にしていて申し訳なかった。篁主任から、君の到着と経歴については聞いてるよ」
「あ……いえ、こちらこそお世話になります」
レオは椅子から立ち上がり、礼儀正しく一礼した。ケイ・イノセ。その名は昨日のオリエンテーション資料の中に確かにあったが、本人と対面するのはこれが初めてだった。遺伝子工学の専門家で、その道ではすでに論文が幾つも世界的に評価されている。
「どうぞ、座ってください。少しだけ、今後の進行について話しておきたいと思ってね」
彼は手にしたカップをそっと置き、レオの向かいの椅子に腰を下ろした。
「昨日、統括責任者のミナト博士と一緒にいるところを見た人がいてね。どうだった?」
「……不思議な人でした」
レオは素直な感想を漏らした。
「不思議、か。まあ、そうだろうね」
ケイはレオの正面に腰を下ろすと、少し意味深な微笑を浮かべた。
「最初に見かけた時、鋭い視線を向けられて、次に会った時には、観察するような、そんな感じがして、だけど、会ってきちんと話してみたら、全然そんな人じゃなくて」
「彼女はね、たまに他人をまるで観察対象みたいに扱うから」
「……観察、ですか」
「僕も最初は驚いたよ。会話してても、人間相手というより……情報の塊を解析してるような目をする。だけど、あの目に興味を持たれると、何かしら“意味”がある。そういう人だよ」
その言葉に、レオの胸が微かに波打った。
「意味」――彼女の視線の鋭さと冷たさ、そして何かを探ってくる感覚。やはり何かあるのだろうか。しかし、そうだったとしても、答えは霧の中だ。
「気になるなら、直接話してみるといい」
ケイはコーヒーを啜りながら言った。「彼女、必要だと思ったことには正直だから。核心には触れなくても、何かヒントは得られるかもしれない」
レオは小さく頷いた。もし、彼女が何か隠しているとしたら……。それを知るには、じかに聞くしかない――そう感じていた。