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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第五章 選択と変化
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第七節 監視者 3

「井尻さん、どうしますか。起動させますか」


 島崎が振り返り、井尻の表情を探った。その眼差しは、とても冷静で、そして、何かを諦めたような様子だった。


「動かさなくていい」


「しかし、EMP放射まで行ってしまうと……。まあ、侵入したのは三人だけみたいですし、大袈裟だとは僕も思いますが」


 井尻はゆっくりと首を横に振った。


「これはドローンの暴走による事故だ。そして、それによってEMPが誤って照射された。そう記録しろ」


 島崎が目を丸くして聞き返した。


「本当にそれでいいんですか?」


「ああ。警報が鳴った後、我々は現場に赴き、確認したが異常は見られなかった。そういうことにする。アーカイブ室周辺の映像記録については、侵入者が映っていた箇所は編集で除去し、“誰もいなかった”映像と差し替えるんだ」


「……つまり、今夜起きた出来事は、すべてを隠蔽する、と……」


 尾崎が自分に言い聞かせるかのように呟いた。


 沈黙が数秒、部屋を満たす。


 そのとき、室内のスピーカーから、微かに音が鳴った。館内放送網が切り替わり、各区画に向けて自動音声が流れ出す。


『全館注意。EMP波動を検出。現在、非常モードへ移行中。外部接続はすべて遮断されました。全職員は最寄りのセーフゾーンに待機してください。館内すべての扉をロックしました。解除には管理者の承認が必要です』


 無機質なアナウンスが館内に響き渡った直後、井尻が低く呟いた。


「地下のアーカイブ室にいるカミーユたちが部屋に戻っていないと、隠蔽工作が破綻する。島崎くん、彼らが戻れるように、必要な扉だけを選んでロックを解除してくれ」


 島崎はすぐさま「了解しました」と答え、手元の端末に指を走らせて指示に従った。



 通常、政府系の施設においては、警備システムの中核としてAIが管理者として配置され、偵察用ドローンや警備型アンドロイド、暴動鎮圧用の武装アンドロイド、さらに攻撃能力を備えたドローンが随所に配備されている。


 施設内には監視カメラ、熱感知センサー、重力センサーなどが張り巡らされ、それらが有機的かつ緊密に連携することで、極めて高度な警備体制が構築されている。


 だが、混ざり者たちを収容するための隔離施設に限っては、その警備体制を巡って政府内部で激しい意見の対立が起きていた。


 そもそも、大量の混ざり者を隔離施設に送ることになった原因は、連邦議会で可決された正式な法案によるものではなく、人口統合計画省が発した一介の省令によるものだった。


 表向きには省長官が出したことになっているが、実際には、同省の官僚たちが独断で進めた政策に過ぎなかった。


 さらに、レオが抱いた疑念は、まさに的中していた。


 混ざり者に対する登録義務化の措置は、進化政策局特務計画部が水面下で極秘裏に推し進めていたものであり、その真の狙いは――レオに、トランス・ウルトラ・ヒューマンへの変異手術を自ら受け入れさせることにあった。


 隔離施設に入れられるかもしれない――その恐怖と不安を与えれば、やがて彼は、人類種の変更に自ら同意するに違いない。彼らはそう読んでいた。


 そして、ミナトが「精神特性監視対象」に分類され、排除の一歩手前まで追い込まれたことも、実は同じ文脈の中にあった。


 特務計画部は、レオがその事実を知れば、ミナトを救いたい一心で自ら接触してくると踏んでいたのだ。


 そうなれば、交渉の余地が生まれる。レオの願いを叶える代わりに、要求を呑ませることができる――そうした目論見が、静かに、冷酷に、張り巡らされていた。


 結果的に、計画は外れた。だが、その裏にあった意図は、決して偶発的なものではなかったのだ。


 このような政治的思惑に、世界連邦議会の議員たちはもちろんのこと、各省庁の官僚らの間にも反発が広がった。


 施設の整備と警備体制を議論するために開かれた省内の秘密会議では、対立が激化し、議論は収拾のつかない混乱を見せた。


 混ざり者の人権そのものを否定する過激派の官僚たちは、施設の警備をすべて機械と非感情型のAIに任せ、感情を一切排除した冷徹な警備体制を推し進めるべきだと主張した。


 彼らは、仮に収容者が暴動を起こした場合には、「全員を抹殺すればよい」とまで口にした。


 一方で、差別に明確に反対する革新派の官僚たちは、人間種の警備員を配置することを訴え、AIにも五感を持ち、自我を搭載した感性型の個体を導入し、収容者の人権を最大限に配慮すべきだと主張した。


 結果として、そもそも省令自体が強引に通された背景もあってか、最終的には革新派の主張が採用されることとなった。


 それゆえに、レオたちが収容された隔離施設では、本来であれば考えられないほど緩やかな警備体制が敷かれていたのである。


 厳格な監視網が構築されていたはずの施設で、彼らがある程度自由に行動できたのは、その異常な緩さゆえだった。


 カミーユの作戦——いや、当人たちにとっては命懸けの決死行——が成功に至ったのは、こうした制度的な歪みと偶然がもたらした、奇跡的な幸運の産物であった。

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