第六節 遮断 1
午前6時台、隔離施設に薄明が差し込む。
しかしその光は、清々しい夜明けとは無縁の、隔離区域の濁った空気を透かす鬱屈とした朝だった。
寝室にいるレオの胸の内には、夜の闇よりも重く、確かな覚悟が根を下ろしていた。
自分たちは、分類のためにここにいるのではない――排除のために、観察され、測定されている。
真実は重い。だが、それは同時に、彼を縛っていた無力感から解き放っていた。
運動時間の際、彼はミナトに声をかけた。
「……話があるんだ」
レオの声に、ミナトはわずかに首を傾けた。その瞳には、状況が掴みきれないままの戸惑いと、どこか子どものような透明さが揺れていた。
そのまま監視員の職員の目を盗み、ミナトを人目の少ない温室棟へと連れていった。
淡い霧がガラスの内側に張りつき、緑の匂いが静かに漂う。
「急にどうしたの?」
レオの面持ちが急に鋭さを伴った真剣なものに変わり、ミナトはやや気圧された。
「ここは、ただの“ケア施設”なんかじゃない。分類不能の子どもたちを、選別してる。生かす者と、消す者を、誰にも知らせずに決めてるんだ」
ミナトは、瞬きもせずにレオの言葉を受け止めた。長い沈黙のあと、唇を震わせて言った。
「やはりこの施設、裏があったんだね」
レオは深く頷くと、言葉を継いだ。
「ああ。カミーユに証拠を見せて貰った。夜中、セキュリティを突破して端末から情報を引き出したんだ。子供たちを乗せたトラックは、ある地点を境に記録から消えていた。子どもたちのタグも、途中で消えていた。移送先も不明。個人識別コード――UICまでもが、まるで存在そのものを抹消するように、削除されていた」
ミナトは言葉を失った。しばしの沈黙の後、口を開いた。
「完全に、人類種浄化ね……。まさか統一政府がそこまでのことをしていただなんて……」
「カミーユは施設の医療データベースも見せてくれた。本来は関係者しか見られない記録で、職員のIDを使ってログインしたんだ。君の名前が登録されていた。精神特性監視対象、情緒的反応過剰による分類保留個体、超人類としての安定性に懸念あり、そう記されていた」
彼女の身体がわずかに強張った。
けれど、その目には恐れよりも、怒りが宿りはじめていた。
「そんなことで排除の対象にされるなんて、ありえない。許されていいことじゃない。情緒的なだけで、人間らしいだけで、邪魔者扱いされるなんて、正気の沙汰じゃない」
「だから変えよう。俺たちの手で」
レオは力強く言った。
ミナトの瞳が見開かれ、震える呼吸の中に、何かが目覚めていく気配があった。
「協力してくれ。カミーユと三人で、内部データを外に出す。カミーユにいい案があって、既に準備を整えてあるらしい」
「わかった」
ミナトは、はっきりと頷いた。
「私も混ざり者、境界にいる人間の一人として、この問題を知ってしまった以上、真相を世間に明かす責任と義務がある。きちんと果たさせて貰う」
その言葉に、レオの胸の奥にわずかに光が射した気がした。
 




