第五節 告発 5
「この施設は、私たちに“選ばせる”ために存在してるんじゃない。選別するためにあるのよ。分類できる個体だけを“適格”として残し、“混血”や“逸脱個体”は……研究用の素材になるか、あるいは……処分される」
言葉の終わりにかけて、カミーユの瞳に宿った光が微かに揺らめいた。彼女の視線が、レオの眼差しをまっすぐに射抜く。
その瞬間、レオは、まるで氷の針が胃に突き立てられたような冷たさを感じた。目の前の現実が、急激に色を失っていく。
「……それだけじゃない。これを見て」
カミーユは手元の端末を操作し、施設内の医療データベースを開いた。
スクリーンに浮かび上がったのは、ひとつの記録――
篁ミナト:仮分類・第二世代超人類/精神特性監視対象
「ミナトも……対象なのか?」
「ええ。彼女は、感情反応に“人間的過剰”があると判断されてる。だから超人類としての安定性に懸念があるって。場合によっては、選別対象に回される可能性が高いわ」
レオは言葉を失った。しかし、次の瞬間には、迷いのない声が喉の奥から湧き上がっていた。
「……この事実を、外に出そう。今すぐに。誰かに伝えるんだ。“ここで何が行われているか”を世界に知らせる」
カミーユは、真剣なまなざしで彼を見つめた。
「その覚悟、本当にあるのね」
「ああ」
レオは頷いた。確信に満ちた瞳で、まっすぐ前を見据える。
「“選ばせる”ふりをして、“排除”するなんて……それは、ただの欺瞞だ。俺たちは人間だ。定義なんかじゃない。存在そのもので、それを証明してやる」
その言葉に、カミーユは深く頷いた。そして、低く、しかし確かに言った。
「準備は、すでに整ってる。明日、動くわ。ただし……もう一人、必要なの。ミナトに、これを知られても構わない?」
レオは一瞬の躊躇もなく、きっぱりと答えた。
「もちろんだ。彼女こそ……“証人”なんだからな」




