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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第五章 選択と変化
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第五節 告発 4

 午前一時、施設全体が“沈黙の眠り”に包まれた時刻、彼は指定されたアーカイブ室へと足を運んだ。


 管理棟地下――普段は立ち入りが厳しく制限された区域だ。


 だが、カミーユの指示通りに進めば、廊下には警備ドローンの姿もなく、センサーの作動音も聞こえなかった。監視カメラのレンズは、確かにそこにあったが、まるで虚ろな義眼のように、ただ壁を見つめていた。


 レオは理解した。


 この施設は厳重な隔離区画でありながら、その監視体制はすでに形骸化している。いや、最初から「監視されていると信じ込ませる」ことが目的だったのかもしれない。


 張りぼて――。


 カミーユがそう呼んだその言葉が、今になってじわじわと現実味を帯びてくる。


 アーカイブ室の扉は、すでに開かれていた。


 室内には、カミーユがいた。端末に向かい、何百という映像ファイルを並べている。


「待ってたよ、レオ」


「……何を見つけたんだ?」


 彼女は黙って一つのファイルを開いた。無音の映像が再生される。


 ――赤ん坊の泣き声。いや、音はなかった。ただ、泣いているのがわかった。


 医療室のような白い部屋。その中で、白衣の技師たちが動いている。


 画面の一角には、遺伝子識別コードのリストが掲示されていた。


「これは……?」


「この施設で“分類不能”として扱われた子どもたち。……レオ、彼らの多くは、もう存在していないかもしれない」


「存在していない、って……どういう意味だ?」


「続きを見て」


 カミーユは別の映像を呼び出した。搬出口の監視カメラ。


 映っていたのは、透明な保護カプセルに収められた赤ん坊たち。無表情の職員がそれらを次々と車両へと運んでいく。


「このトラック……どこへ向かった?」


「監視映像を辿って、ある程度までは追えた。けど、問題はその先」


 再生された次の映像は、都市の外れにある搬送路だった。


「ここで、トラックが監視ゾーンの外に出る」


 映像の最後、車両はトンネルの暗がりへと消えていく。


 その先に待っていたのは、ぽっかりと開いた無音の闇――そこから先、どの監視カメラにも、トラックの姿は一切映っていなかった。


 カミーユは静かに端末を操作した。そして、一つの画面で手を止めた。


「見て。これが、そのトラックに積まれていた個体識別ナンバーと、付与された追跡タグの通信ログ」


 通常であれば、タグから発せられる信号は、移動経路に沿って一定間隔で記録される。


 だが、画面に示されたログは、トンネルの入口を最後に、突然、ぷつりと途切れていた。


「これは……通信障害じゃないのか?」


「違う。受信側のシステムには異常なし。つまり、タグ側の発信が――外部から、強制的に遮断されたの」


 カミーユはタグの電圧ログや波形を拡大表示し、細かく解析を走らせる。


 タグ信号の断絶直前、波形には微細な異常が記録されていた。それはまるで、生体からタグが“引き剥がされた”ようなノイズだった。


「あなたも施設に来た時、個体特性精査・識別センターでナノタグを埋め込まれたでしょ? この施設では全収容者にそれを義務付けている。もちろん、この赤ちゃんたちにも。だけど、この信号……誰かがタグを物理的に破壊するか、あるいは外部からアクセスして、データリンクそのものを切断してる」


「……痕跡を残さないためか?」


「ええ。意図的に」


 彼女はさらに操作を続けた。施設内にまだ残っていた赤ん坊の一人の個人情報を表示し、その個体に割り振られた統一個体識別コード――**UIC(Unified Individual Code)**を確認する。


 そして、飛霞自治州のメインサーバーに不正アクセスし、州民UICネットワークを開く。コードを入力――結果は「該当なし」。


「そんな馬鹿な……」


 レオが思わず呟く。モニターの青白い光が彼の顔を照らしていた。


 カミーユは念のため、他の赤ん坊のUICも入力していく。だが、全てが削除済み。存在していない。


「UICの削除には、AI審査と複数の行政署名が必要。だから通常、絶対に起こりえない……。これが意味することは一つ。おぞましい話だけど……」


 彼女はモニターを見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「“存在そのもの”が、記録から抹消された……」


 レオの喉奥から漏れた声には、冷たい現実の重さが滲んでいた。


「この前、ハクが話していた“いなくなった女の子”は……?」


「その子も含めて、それ以外の個体についても、調べられる限りすべて確認した。でも、処理の過程はみんな同じだった」


 カミーユの声には、既に怒りや憐れみを通り越した静けさがあった。


「……なんてことだ」


 レオは奥歯を食いしばり、下唇を噛みながら拳を握った。その指先が震えている。

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