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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第五章 選択と変化
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第五節 告発 2

 それでも、一日一度、〈運動時間〉と称された自由時間が与えられていた。指定された時間になると、全収容者は地下フロア中央の広場へと集められ、限られた時間の中で身体を動かすことが許された。


 また、朝、昼、夕の三度、食事の時間には〈食堂〉と呼ばれる共有スペースに誘導され、全員が同じ時間に同じ食事を摂ることになっていた。


 そのわずかな時間だけが、個室という隔離の殻を破り、他者と接触できる機会だった。


 レオは、その時間にいつもミナト、カミーユ、そしてハクと同じテーブルに着いた。四人の間に交わされる会話は、表面的には穏やかだったが、その裏には張り詰めた緊張感が漂っていた。


「ここの管理、物凄く規則正しいでしょ」


 そう口を開いたのは、カミーユだった。大きな瞳はふとした瞬間に冷たい光を宿し、どこか探るような視線で周囲を見回していた。


「あの連中、絶対に何か隠してるよ。ここ数日、夜中にちょっとだけ抜け出して調べてみたけど、例えば第四層の廊下に設置されたセンサー。収容者全員を監視してるわけじゃないっぽい」


 カミーユは施設に収容される前から、統一政府の差別主義的な政策に反発し、彼らが何をやっているのか、公的機関の施設やサーバーに侵入して調べ、隠された事実を公にする活動に手を染めていた。


 その経験と技術が隔離施設に収容されたことで、内部から悪業を暴ける好機が訪れたのだ。


 ハクとレオはその言葉に眉をひそめたが、すぐには否定の言葉を返さなかった。むしろ、内心では同じ疑念を抱いていた。


「事実、日に日に収容者の数が減っている。……けれど、いなくなった人の名前が、誰の口にも上らなくなる。まるで、最初からいなかったみたいに」


 そう言ったのは、ミナトだった。彼女はテーブルの端に静かに座り、スープに匙を落とすでもなく、ただ無言で耳を傾けていた。だがその言葉には、他の三人が無意識に黙るだけの重みがあった。


「朝の点呼……前は確かに名前が呼ばれてた人が、次の日には何事もなかったように飛ばされるの。順番も微妙にずれてる気がする。でも、誰もそれに触れない。……きっと、恐れてるのよ。“次は自分かもしれない”って」


「今朝の点呼で、D区のレーンにいた女の子がいなかった。……彼女、昨日、僕に“夢を見た”って言ってた。空の夢。風の夢。それから、……檻のない世界の夢」


 ハクの声には、どこか遠くを見つめるような静けさが宿っていた。


「昨日の女の子だな。ハクと話していたのは覚えてるよ。しかし彼女、どこも悪そうには見えなかったが」


 レオが何とも言えない顔をした。


 するとハクが低い声で言った。


「昨日の時点で、彼女はどこかに移送されるだなんて話はしてなかった。急病で搬送された可能性も、ないとは言わないけど、低いだろう。……この施設、何かおかしい。統一政府の奴ら、裏で何かやってるんじゃないか?」


 そのときの彼の声音には、普段の穏やかな口調にはない微かな怒気が滲んでいた。ハクは、自分がどこにも属せぬ存在として、差別や無理解に晒されてきた。その経験が、制度や権力に対する根深い不信感を育んでいたのだ。


 レオもまた、その不安をぬぐいきれずにいた。食堂で交わすささやかな会話や、広場での一瞬の笑顔すら、すべてがこの異様な施設の中で管理された“演出”のように思えてならなかった。


「この場所には、“生”を感じない。誰かが決めた“管理された秩序”が、息をすることすら許してくれない……。そんな感じね」


 ミナトが呟いた。


「その女の子の件も含めて、この施設、徹底的に調べてやる」


 カミーユは執念を燃やした。

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