第五節 告発 1
統合隔離観察施設〈第七調整区画〉――外部からはその全容がうかがい知れぬよう、地表に露出した部分は最小限に抑えられていた。
低く沈んだコンクリートの外殻は、地上の風景から無理やり切り離されたように無機質で、無言のまま周囲の自然と断絶していた。
建物の大半は地下に広がっており、五層構造の各階には、徹底的に効率化された廊下と室区画が縦横に張り巡らされている。
最上階は管理用フロア。統括者と技術スタッフが常駐し、下層全域の制御を遠隔で行っていた。中層には観察室や医療ラボがあり、下層になるほど“非公開”の用途が増えていく。
レオたちが収容されているのは、第四層、〈分類待機ユニット〉と呼ばれる区画だ。名称だけを見れば仮設の保護施設のように思えるが、実態は“適性判定が下されるまでの保管庫”に過ぎない。
この階には、子どもたち一人ひとりに割り当てられた個室が並んでいた。とはいえ、私的空間というよりは“監視可能な収容ブース”というべき代物だった。
各室は四方を合成樹脂と防音パネルで囲われており、天井には不可視赤外線センサーと全天球型カメラが取り付けられている。
監視は二十四時間体制で、映像とバイタルサインが逐一記録されていた。プライバシーは、ここでは“リスク”と見なされていた。
部屋の広さは、わずか六平米。壁に組み込まれたシングルベッドと、最低限の衛生設備、収納と机が備え付けられているが、窓は一切ない。空調は中央制御されており、室温や湿度も外部で管理されていた。
外界の季節も時間帯も、この部屋にいる限りは意味を成さなかった。
衣服もまた、制限されていた。
支給されるのは統一された灰青色の〈生活管理服〉。
素材は伸縮性と耐熱性に優れた合成繊維で、帯電を防ぐための静電処理が施されている。
ファスナーやボタンなどの金属部品は使われておらず、全体が一体成形されている。
服にはIDタグが内蔵されており、着用者の位置や体調が逐一モニタリングされていた。
個性を示す装飾は禁止されている。髪型や持ち物にも制限があり、装身具や私物の持ち込みは一切許可されなかった。彼らは“人”としてではなく、“管理対象”として扱われていた。
彼らは名前を奪われ、番号で呼ばれていた。
レオはSIA-037-A、ミナトはSIB-014-B、カミーユはHTX-221-C、ハクはEXN-099-X。これらは管理番号で、長いので略して37A、14B、221C、99Xと呼ばれていた。
入所初日、レオたちは全員、携帯端末や通信機器を没収された。すべての接触手段は遮断され、外の世界とのつながりは強制的に絶たれた。




