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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第四章:交錯する運命
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第六節 象徴の覚醒前夜 1

 休日の朝、レオは〈クライン学術情報研究所〉へと向かっていた。そこは、飛霞自治州の第七環――通称セプトリングと呼ばれる知識特区の中心に位置し、外界と切り離されたような静謐と緊張の漂う空間に建っていた。


 建物は、地上から見る限りは存在しないも同然だった。


 周囲の風景をそのまま映し返す迷彩素材で包まれた構造体は、空気と光の隙間に消え入り、実体の輪郭すら捉えがたい。だが、許可された個体が専用のナノパスを通して接近すれば、球体と多面体を掛け合わせた異様なシルエットが、無言の巨塔として浮かび上がってくる。


 その場に足を踏み入れた瞬間、レオは空気が変わったのを感じた。音がない。気配がない。いや、あるのは、無音の気配――沈黙の中に幾重にも折り重なる観察の視線、測定の網、思考のスキャン。


 招待の理由は明かされていなかった。だが、レオには察しがついていた。進化政策局特務計画部の人間が接触してきた際、彼らはこう告げていた。


『四つの人類種のいずれにも完全には属さない唯一無二の存在』


『肉体に機械を融合させることで、能力を限界以上に拡張できる。その事実こそが、四つの人類種を超克する鍵となる』


『あなたがその頂点に立たなければならない』


 そして今――彼らの領域・第七環に足を踏み入れただけで、トランス・ウルトラ・ヒューマンたちの“観察”の視線に晒されているという事実。


 それらすべてが一つの予測を濃密に裏付けていた。即ち――


――レオに、単なる進化の一形態ではなく、人類の“統合と超克”という壮大なビジョンの中核に位置する存在として、〈トランス・ウルトラ・ヒューマン化〉を勧めること。


 敵意ではなく、関心。憎悪ではなく、観察。それは、正しく、彼自身が〈時代の媒介者〉――この人類史における転換の鍵を握る存在であると、冷静に、論理的に評価されている証だった。


 内部に入ると、研究所の空間は徹底して無機質だった。照明はすべて間接光によって制御され、壁も床も天井も、無彩色の抽象性に覆われていた。


 音が反響しないどころか、自らの足音すら吸い取られてしまうこの空間は、まるで〈沈黙する知性〉そのもののようだった。


 だが、その中にいるトランス・ウルトラ・ヒューマンたちの視線だけは、奇妙な“温度”を帯びていた。


 無感情ではなく、無関心でもない。彼らはレオを“観て”いた。対象ではなく、因子として。変数として。未来を変える“契機”として――彼らの冷徹な戦略眼の中で、レオの存在が静かに測定され、運命の座標が演算されつつあるのを、彼は肌で感じていた。


 その時だった。


 静謐な廊下の奥にある、艶のない金属製の扉が、まるで感情すら持たぬような動きで音もなく横に開いた。続いて、周囲の光量がわずかに変化し、そこに一つの人影が浮かび上がる。


 現れたのは、白銀の髪と琥珀色の瞳を持つ女性だった。薄い灰色の研究衣を纏いながらも、その立ち姿には軍人のような緊張感と、哲学者のような静けさが共存していた。


 彼女の歩みは滑らかで、計算された静音設計の床にすら足音一つ残さなかった。


 年齢は不詳。しかし、まとう空気だけでこの場における彼女の“重さ”が伝わってくる。


 気品と知性を併せ持つその人物は、クライン学術情報研究所の理論指導官、エリザ・ラーフェン。トランス・ウルトラ・ヒューマンの中でも穏健派の代表格として知られる存在だった。


「ようこそ、大川戸レオ君」


 エリザは、まるで旧知の友に語りかけるかのような、柔らかくも計算された口調で言った。


 「君の存在について、我々は以前から注目していた。正確には、“君という可能性”に、だが」


 エリザの言葉は、まるで既に結論の中に立っているようだった。


「君が“シリウス計画の提唱者の血を引く者”であること。それが、単なる偶然ではないこと。もっと言えば――」


 彼女は少しだけ声を低くして続けた。


「君は、象徴になりうる。『種族間の境界を超えた意志』の、ね」

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