第四節 幻想の知性 3
「……貴様、人間のふりしてるだけじゃないのか? いや、見ろよ。あいつ、アンドロイドに肩入れしてるぞ。どっちの側の人間なんだよ」
その声に呼応するかのように、倒れた自律歩行型のアンドロイドが微かに反応を示した。内部回路に残されたバッファから音声信号が復元され、壊れかけの合成音が空気を震わせる。
「……戦争の発端は、トランス・ウルトラ・ヒューマンによる、機械人類に対する明確な侮辱行為……。彼らは、自衛のために立ち上がった。それが事実だ。責任は、有機体の側にあるのではないのか」
その場にいた者たちの表情が、さらに険しくなった。
「ほら見ろよ。結局、こいつらは自分たちに正義があると思ってやがる。アンドロイドも、あの機械人類どもと同じ思考回路で動いてんだよ!」
「おい、やめろ! ここで揉めてどうする!」と誰かが叫ぶが、緊張は抑えがたく膨れ上がっていく。
ふと、背後から声がした。
「死なない奴らは、命の重みを知らん。だから戦争を平気で始めるんだ」
声の主は、瓦礫の陰に身を寄せていた老齢の男だった。救助を拒むでもなく、ただ静かに目を閉じていたその男は、誰に語るでもなく、独り言のようにそう呟いた。
レオはその言葉に、何か鋭利なものを心臓に突き立てられたような感覚を覚えた。
命とは何か。
生きるとは、死ぬとは——。
不死の存在に、死の意味はあるのか。情報と記憶に価値を託す世界で、「生きること」とはどう位置づけられるのか。
都市は再び、静寂に包まれていた。だがレオの内側では、かつてないほどの問いが燃え始めていた。




