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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第二章 呼び声
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第五節 水槽(アクアリウム)の中の異変 2

 レオとケイのやり取りから、わずかに数分後のことだった。


 第一警報が鳴ったのは、第六サブドーム第七水槽の監視系統からだった。通常、赤潮発生や温度逸脱といった自然由来の警告がその対象となるが、今回は違った。アラームは、**「生体活動パターン逸脱」**という、過去に一度も鳴ったことのないコードを伴っていた。


 コンソールに表示されたのは、驚くべきデータだった。改造種のヤマトクラゲγ108が、異常な速度で自己発光を繰り返しながら、水槽の壁面に連続して衝突している。しかも、同時に、アユとワカサギを掛け合わせて海水魚に改造したアユサギがパニックを起こし、水槽内を旋回しながら互いの尾を齧り合うという共食い行動を始めていた。


「観測データ、これ……誤作動じゃないのか……?」


 背後で若手研究員の一人が、コンソールにしがみつくようにして呟いた。


 だが、その言葉が終わるより早く、第二の警報が重なるように鳴り響いた。


「……今度は第五水槽?」


 モニタに切り替えられた映像は、思わず息を呑むほどに衝撃的だった。


 牛肉のような肉質を得るために遺伝子改造された「ホオジロホルスタインザメ」が、あり得ざる光景の中心にいた。


 本来は単独で行動し、群れる習性のないはずのアメリカオオアカイカ――しかも、サイズを小型化し、獰猛性を意図的に除去された個体群が、なぜか集団を成してホオジロホルスタインザメに襲いかかっていたのだ。


 あの“海の肉牛”が、まるで処刑される家畜のように、反撃することもなく、食い荒らされている。


 食物連鎖の序列が逆転していた。捕食者が、なす術もなく獲物と化していた。


「そんな……あのサイズのイカが、サメを……?」


 しかもその場には、他のサメたちがいたにもかかわらず、誰一匹として逃げようとせず、まるで恍惚としたように、同胞が喰い尽くされる光景を静かに眺めている。


「全水槽、生体行動ログを再解析しろ。センサー誤作動の可能性も……」


 ケイの指示と同時に、研究所内に緊急対応コードが発令された。即時応援要請に応じ、隣接ブロックの研究員たちが次々と走り込んでくる。


 水槽ごとに配置された専任チームが、AIの補助を受けながら、リアルタイムで生体行動ログの再解析を始めた。


 端末の前に座る白衣の背が並ぶたびに、制御室の空気は焦燥と緊迫を孕み、まるで嵐の前の海のように張り詰めていく。


 どの端末からも、次々とエラーコードが点滅していた。


「第三も……高密度群れの自壊挙動。自己突撃、骨折……内部出血……」


「第四は、種ごとの戦闘態勢……まるで交戦前の軍列……」


「これ、偶然の集積じゃない……!」


 レオが呟いた瞬間、制御室の天井スピーカーから第三層AIの自動音声が流れた。


《告知:生体パターン逸脱。レベルβ。モジュール判別不能の異常変動。水槽群の自動封鎖処理を開始します》


 直後、研究所内の照明が一斉に黄色警戒色へと切り替わった。水槽の一部には即時シャッターが降ろされ、内部の映像フィードも順次遮断されていく。


「ケイ、何が起きてるの……?」


 ざわめきの中、女性の低く冷静な声が響いた。振り返ったレオの視線の先には、ミナト――第二研究ブロックの統括責任者――が、白衣を翻して制御室に入ってくる姿があった。


「ミナト主任……この異常、いまだに解析不能です。水槽群に、相互に無関係だったはずの行動パターン逸脱が同時多発しています」


「逸脱……というより、感染……ね」


 ミナトの表情は鋭く、すでに事態の核心に気づいていたかのようだった。

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