黎明
季節は巡り、あの〈未来協定〉が結ばれてから、幾年かの月日が流れた。
かつて灰色に覆われていた超高層都市は、今や柔らかな光と穏やかな音に満ちている。
ビルの谷間には市民農園が広がり、歩道脇には育成管理された植栽が静かに揺れていた。
人の往来にあわせて変化する路面パネルの足元に、季節ごとの花が投影される。
人工物で構成された都市の骨格に、ひとつずつ、命の気配が戻り始めている。
空の色は、今日も静かな青だ。空調と光環境の制御が行き届いた都市圏でも、天候は完全には支配されていない。
だからこそ、晴れ渡った一日は、奇跡のように思える。
高層ビルの上階から見える雲の流れはゆるやかで、陽光は建物の隙間を縫いながら、街の隅々へと注いでいた。
人々は今、誰かの目を気にすることなく、街路を歩いている。
現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、機械人類、そしてその境界を越えて生きる「再構成者たち（リコンストラクター）」──かつて“境界人”と呼ばれた者たちの子孫が、今は誇りをもって自然に混じり合い、この街を満たしていた。
＊ ＊ ＊
世界のどこか。名もなき小さな都市。
小さな教育施設の教室。
大きな窓の向こうには、軌道エレベーターへと接続する巨大なリング型ステーションが、空に弧を描いていた。
そこでは、機械の身体をもつ者も、有機体の身体をもつ者も、共に働き、共に暮らしている。
その教室で、レオは教師として、子どもたちに語りかけていた。
「今日の授業は、“分かたれた時代”について話すよ」
背筋を伸ばした少年少女たちは、興味津々の眼差しで彼を見つめていた。
レオの言葉は、どこまでも優しく、けれど力強かった。
「昔、人間は、自分たちを“種”で分けていた。どの身体が優れているか、どの知性が正しいか……そればかりを競ってね。だけど僕たちは、それを終わらせた。未来協定で、種を廃止し、違いを尊重し合う道を選んだ」
一人の少年が手を挙げた。
「先生。死って、機械にも必要なんですか？」
教室が静まり返る。生徒たちは息を呑み、レオの答えを待っていた。
彼は少しだけ目を細めてから、ゆっくりと微笑んだ。
「必要かもしれない。でも、もっと必要なのは……互いに違っていても、認め合うことだ。死があるからこそ、生は輝く。けれど、生きている限り、その違いに意味を見出していくことも、同じくらい大切なんだよ」
レオは、自分のような存在が必要な時代が二度と訪れることがないよう、心の底から祈っていた。
だからこそ、使命を果たした後、名を変え、周囲の誰にも行き先を告げずに立ち、一個人に戻って市井の人として生活することを選んだ。
象徴としての自分の力の強さを理解しているからこそ、政治利用されることを恐れたのだった。
父シリウスと母真凛には、事情を打ち明け、行き先を告げられないことを詫びた。
しかし、二人はレオの決断を支持し、快く送り出してくれた。
ミナトも、エイジも、カミーユも、ハクも、当然、レオの行き先を知らない。
＊ ＊ ＊
カミーユは、宇宙ステーション〈ユニファイア〉で働いていた。
あの「人格分裂のデータ密売」に関わる闇の記録を記憶した過去をもつ彼女は、今ではAIと人間の倫理をつなぐインターフェイスとして、宇宙での人類社会設計に携わっていた。
「私たちは、もう“定義された役割”に縛られなくていい。名前や機能でラベルを貼られずに、生きていてもいい時代なのよ」
これは協定発効後の社会になってから、詩人が言った言葉だった。
彼女はこの言葉を非常に気に入っていて、よく口にしている。
彼女は、かつて危険視され、わずかな期間とはいえ、自我を身体から切り離されて、完全に管理されたサイバー空間へと“保管”された。
社会にとって不確かな存在は排除される、それが当たり前だった。
だが今、彼女はそこから還ってきた。
彼女はもう、過去に囚われてはいない。
そして、誰かの望む“未来のかたち”に押し込められることもない。
今この瞬間を、自分の名で、自分のままで生きていた。
その目には、生まれたてのような静かな決意と、かつてよりも自由な光が宿っていた。
＊ ＊ ＊
ミナトは地球に残り、特別再構成型ヒューマンの支援活動に従事していた。
特別再構成型ヒューマンとは、かつての人体実験や遺伝子操作によって意図的に造られた存在たち——社会からは「失敗作」や「人ではないもの」として扱われ、長く抑圧されてきた人々である。
ミナト自身も、シリウス計画によって生み出された試作個体のひとりだった。
だが今は、誰かの手で“造られた存在”ではなく、自らの意志で歩みを選ぶ人間として、共に未来を築こうとしていた。
彼女の活動は、境界を持たぬ新たな世代へのメッセージとして、着実に社会に根を下ろしていった。
＊ ＊ ＊
再び、視点は宇宙へと移る。
地球と月の間には定期航路が確立され、火星では初めての混成型コロニー〈ノア・リンク〉が起動を開始していた。
人類の未来は、もはや一つの種に縛られず、ひとつの形に依存しない。
地球の上空に広がるリング型ステーションでは、有機体の手と機械の指が共に働く姿が見える。
そこには、かつて存在しなかった“協働”という名の希望があった。
夜空に、星が瞬いていた。
その遥か彼方から、静かに言葉が降りてくるようだった。
「22世紀、人類は四つの形に分かたれながらも、再び一つの目的を見出した。それは、“存在すること”を祝福することだった」
歴史家が一連の出来事を史書に記すとすれば、このような言葉になることだろう。
星々のきらめきは、まだ見ぬ明日を照らしていた。
人類の未来への歩みを、まるで導くかのように。
スマホ向けの改行作業をしている際、文章の消し忘れや、おかしな部分が結構見つかりました。
すぐに訂正できるものは訂正しましたが、原則、変えずに残しました。
ChatGPT-4oを使用して作成した小説ですが、本当に楽に作れました。
この作品は400字詰め原稿用紙1000万近くになりますが、要した期間は自分だけで書いた場合と比較して恐らく10分の1くらいだと思います。
今バージョンアップしたGPT-5になっていますが、もっと楽に作れるようになっているかも知れません。
生成AIの性能と成長速度って、本当に、凄いですね……。
