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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第九章 協定
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再会と再構成 1

 都市の境界に近い空きビル群の一角。


 風に晒されたコンクリートの壁が、夕刻の光に長い影を落としていた。


 かつて物流の中継拠点として機能していた施設は、今や人々の記憶からも零れ落ちたような静けさの中にあり、鉄製のシャッターは腐食し、張り紙の類は風にめくられ、時間の層を剥き出しにしている。


 その建物の最上階、会議室の中心に、レオは立っていた。


 足元にはコードの束、壁面には仮設の通信装置。


 技術支援を受け、かつての隔離施設に収容されていた仲間たち──自らを「境界人」と称した者たちに向けて、招集の信号を送っていた。


 目的はただ一つ。


 円卓会議を前にして、彼らと再び顔を合わせ、この分断された世界を繋ぎ直すための対話を始めること。


 再構成に向けて、共に歩む準備を整えることだった。


 ドアが軋む音と共に、最初の来訪者が姿を現す。


 赤銅色の髪に異様に背の高い少年──ハク・カディール。


 彼は笑みを浮かべて会議室に入り、レオに軽く頷いて席についた。


「カミーユを捜す為に飛霞を立ってから、そんなに時間は経っていないのに、なんだか滅茶苦茶遠い昔の記憶みたいだ」


 静かな声が床を這うように響く。


「ずっとどうしてるのか気になっていたけど、どこにいるのかわからないから、連絡の取りようがなかった」


 二人の言葉に余分な装飾はない。


 共に過ごした時間の中で、言葉の重みを知っている者同士のやりとりだった。


「ところでカミーユは見つかったか?」


 レオの問いに、ハクは笑みを崩さずに、こう答えた。


「後で話すよ」


 続いて入ってきたのは、補助装甲を装着した細身の少女──名はナヴィ。


 トランス・ウルトラ・ヒューマンの母と超人類の父を持っていたが、遺伝子編集が上手く行かず、能力的には現生人類に近かった。


 容姿の面でも、胴体が長く、身長も平均程度しかない。


 その為、トランス・ウルトラ・ヒューマンになる為の手術を受けたものの、能力が余り向上せず、トランス・ウルトラ・ヒューマンの基準を満たせなかった為に混ざり者となった。


「あなたが共生思想を訴えて、共鳴する人達の団体や組織が沢山できたおかげで、世の中の空気と私への風当たりが、見違えるようによくなったよ」


 感謝の言葉にレオは頷く。


「まだまだ。共生社会に向けた動きが本格化するのは、これからだよ」


 やがて、部屋には懐かしい収容者達の顔ぶれが満ちた。


 それぞれが、この世界に分類されなかった者たち。


 選択の強制から逃れ、あるいは拒まれた者たち。


 かつて隔離施設の灰色の壁に囲まれ、理不尽の名の下に存在を否定された者たち。


 そして――静寂の空間に、ひとつの足音が響いた。


 その音は、誰よりも彼らの記憶に深く刻まれた存在の証だった。


 扉の向こうから差し込む淡い光の中に、その姿が現れる。


 煤けた黒髪、琥珀色の瞳、細身の肢体に宿る知性と静謐。


 誰もが言葉を呑み、そして一斉にその名を呼んだ。


「……カミーユ」


 彼女は静かに立っていた。


 あの日、隔離施設で告発を共にし、その後、闇に消えた少女。


 だが今、その姿は幻ではない。


 ここに、確かに在る。


 感情が溢れる。


 何度も彼女の声を思い出し、サイバー空間での交信に心を揺さぶられ、何度も「必ず助ける」と誓ったその少女が――いま、目の前に。


 レオの胸の奥が熱くなる。喉元が震え、視界が滲む。


 カミーユは、ゆっくりと歩み寄る。


 彼女の瞳には、静かな喜びと、長い時を超えてようやく辿り着いた安堵が宿っていた。


「……ただいま、レオ」


 その声は、あのサイバー空間で幾度も耳にした柔らかな声。


 けれど今は、現実の空気を震わせ、耳に、身体に、心に届く。


 誰よりも遠いところにいたはずの彼女が、ようやくこの世界に戻ってきた。


 レオは立ち尽くしていた。


 まるで夢のようだった。


 何度も、何度も願い、祈るように想い続けてきた声、姿、そして温もり。


 いま、それが目の前にある。


 言葉にできぬほどの安堵と歓喜が、胸の奥を貫いて、痛いほどだった。


 レオは、一歩踏み出して、震える声を搾り出した。


「……よかった……もう……もう会えないかと……」


 声が詰まり、呼吸が乱れる。


 何かを言おうとするたび、心の奥底から湧き上がる熱情が喉を塞いだ。


 それでも、どうしても伝えたかった言葉が、ようやく零れ落ちる。


「必死で……捜したんだ……だけど……まるで行方が掴めなくて……」


 その声には、途切れ途切れの言葉の背後に、どれだけの時間と痛みがあったかが、にじみ出ていた。


 カミーユは小さく頷き、レオに手を伸ばした。


 その指先が、彼の腕にそっと触れる。


「……ごめんね、レオ」


 たったそれだけの言葉が、心の傷を静かに包んだ。


 そして、背後から聞こえたもう一人の声が、ふたりの空気に静かな現実感を与えた。


「……クーデターが起きて、内戦状態になってしまったから……」


 ミナトだった。彼女の声には、冷静さの奥に、深い憂慮と焦燥が滲んでいた。


「正直……最悪の事態も覚悟してた」


 その言葉に、カミーユは小さく笑みを浮かべ、けれどすぐに真顔に戻った。


 その瞳には、過ぎ去った時間の重みが刻まれていた。

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