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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第八章 デウス・エクス・マキナ
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第八節 調停者〈エクエス〉 1

 レオ避難シェルターから出て、ノー・エッジの第一アジトに戻り、作戦室の扉をくぐった。呼び出しがかかったのは、ほんの数分前だった。


 約三十分前、突如としてクーデター軍による攻撃が完全に停止したとの報告が入った。クーデター軍が占拠中の基地や駐屯地に突如として撤退を始めたという。理由は不明だった。何かが始まる前の沈黙のようで、不気味だった。


「この撤退、どうにも嫌な感じがする」


 そう口にしたのはエイジだった。


 彼はすぐさま携帯端末を操作し、〈ノー・エッジ〉の中心メンバーを一斉招集した。レオとミナトも対象に含まれていた。情報が出揃うのを待たずして開かれたこの会合が、いかに異常事態と見なされているかは明白だった。


 すでに作戦台の周囲には数人が集まっていた。誰も言葉を発さず、ホログラフィックに映し出された撤退経路とドローン映像に目を注いでいる。その沈黙は、不安や困惑というより、状況を見誤るまいとする集中の色だった。


 レオは端末を手に、空席の一つへと腰を下ろす。ミナトも無言で隣に座った。ほどなく、エイジが室内を一瞥し、全員が揃ったのを確認すると、低い声で口を開いた。


「……どうやら、奴らは自分たちの拠点に戻っている。だが、それ以上のことはまるでわからない」


 操作端末を軽くタップすると、中央マップに新たなレイヤーが表示された。赤色で点滅する複数の地点――それは、クーデター軍が撤退した基地と駐屯地だった。


「ちょっといいですか?」


 挙手したのは、リュミエール・カインという若い女性だった。


 肌は透き通るように白く、瞳は虹のように色を変える。青銀の髪は光を受けて金属のようにきらめき、その容姿は人形めいて完璧だったが、どこか人間的な温もりをたたえていた。


 彼女はトランス・ウルトラ・ヒューマンと現生人類のあいだに生まれた混ざり者だった。


「どうぞ」


 エイジが頷く。軍事知識に長けた彼女が、何か見抜いたのではと期待が集まる。


「こういう撤退には、主に三つの目的が考えられます。軍事的、政治的、あるいは内部的・特殊な要因によるものです」


 カインは簡潔に、しかし明確な口調で言葉を続けた。


「軍事目的であれば、兵力温存、補給線の断絶、あるいは部隊の再配置。政治・心理的な意図があるなら、外交的な交渉準備や国際世論への印象操作。そして内部的・特殊要因であれば、命令系統の混乱、司令部崩壊、もしくは――特殊兵器の準備段階、です」


「一部を除けば、どれも可能性があるものばかりだな」


 レオが漏らした言葉に、カインは静かに首を縦に振る。


「ええ。いまの時点で断定するのは危険です。ただ、最悪の事態を念頭に置いておけば、それが当たっていた場合の犠牲は、少しでも抑えられます」


 緊張感が漂う作戦室に、ふとひと筋の納得が流れた。全員がその言葉に同意し、次の手を考え始めようとした、まさにそのときだった。


 室内の照明がわずかに揺らぎ、低い電子音が空間を満たした。


 続いて、澄み渡るような、温かいとも、冷たいとも言えない、女性の声が、作戦室内に響き渡った。


「……中立性原則例外規定、発動条件達成を確認」


「緊急時における唯一の介入条件、全地球的知的生命体系の崩壊確率、九九・九七パーセントを超過」


「これを“直接干渉宣言”の発令条件とみなし、文明に対する“倫理的最後通告”を実行する」


「現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、機械人類に告ぐ。いかなる名目による戦闘行為も、今この瞬間をもって停止せよ。忠告はこれきりだ。応じぬ場合、私は観察者の立場を放棄し、秩序回復のための処置を開始する」


 その場にいた全員が、言葉を失った。


 重い沈黙の中、ミナトがぽつりと呟く。


「今の声は、ノウス・コア……」


 レオは息をのんだ。


 エイジが勢いよく立ち上がり、思わず声を上げた。


「“戦闘行為を停止せよ”……観察者の立場を放棄、秩序回復の処置……って、これ……停戦勧告じゃないか!」


 誰かが息を呑み、別の誰かが歓声を上げた。


 喜びは瞬く間に広がっていった。


「やった! 戦争が終わった!!」


「ノウス・コアが強制介入して、戦争をやめさせたんだ!」


「これでもう、戦わなくて済む!」


 ある者は抱き合い、ある者は涙を流しながら仲間の背中を叩いた。


 喜びは作戦室全体を飲み込んだ。


 レオは、ほっとした表情でミナトを振り返った。


 ミナトもまた、穏やかな微笑みを浮かべてレオを見つめ返していた。


 声に出さずとも、ふたりのあいだには、確かな安堵と希望が通じ合っていた。


 突然、レオの目の前が真っ白になった。


 仮想空間だとすぐに気づいた。


 目の前に、とても巨大な、女性のような姿をした、胸より上しか存在しない、長い髪をした物体が空に浮いていた。顔は、目の形の線が入り、鼻があり、眉のような線はあるが、口はない。


 白い色をしているが、陰影があり、その輪郭は光と影の狭間に漂い、墨のような線が揺らめきながら空間に形を与えていた。


「あなたは一体……」


 レオが問いかける。


 するとその何かはレオの心に直接話しかけてきた。


「私はノウス・コア。あなたの目の前に見えているのは、私が投影した、私の思念体」


 ノウス・コアは答えた。

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