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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第八章 デウス・エクス・マキナ
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第五節 和平を求めて 3

 リンクが確立される刹那、周囲の空気がわずかに震えた。次第に、耳に入ってくる音が遠のいていく。まるで水の中へ沈んでいくかのように、世界の輪郭がゆっくりと崩れていく。現実の色彩が褪せ、脳の奥へと静かに波が広がった。


 そして――。


 暗い記憶保存シェルターの内部は仮想的に再構成され、広大な、だがどこか虚ろな灰色の平原が眼前に広がった。空には何もなく、足元には柔らかい砂がさらさらと敷き詰められていた。


 そして、その中心に、ひとりの人物が姿を現す。


 無機的な光沢を纏いながらも、どこか人間らしさを残したその存在は、機械人類の身体構造に準じた造形をしていた。だが、その瞳は、深く静かな演算の揺らめきを湛え、見る者に奇妙な安心と畏怖を同時に与えた。


「私はアイン。共存派機械人類の指針を掲げる存在にして、記録を護り、意思を繋ぐ者。この“記憶の平原”において、あなた方との対話を始めよう」


 その声は、音ではなく、存在の内側に静かに響くように感じられた。冷たくはないが、熱も持たぬ。それは、理性によって精錬された言葉だった。


「――大川戸レオ。そして、篁ミナト」


 アインが名を口にすると、その声音には確かな敬意が宿っていた。作られた声のはずなのに、どこか詩的な響きが残る。


「はじめまして」


 レオが一歩前に出て、小さく頭を下げる。


「ゼファル氏からあなたの存在を紹介されて、それで今、あなたと話させて頂いています」


「君たちの存在は、かねてより注目していた」


 仮想現実内だが、現物をかなり忠実に再現している為、アインの顔は老朽化が原因で表情が薄かった。だがその音の揺れは、語らぬ感情の反映のようでもあった。


「特に、あなたが」


 アインはそう言ってゆっくりとミナトに視線を移す。


「“シリウスβ”……“混合された存在”として、歴史の狭間に立つ者。シリウスαは混ざり者であると同時に、四人類種の頂点に立つ新たな人種でもある。しかし、シリウスβはそうなれなかった混ざり者。感情抑制派と肉体派の中間に立つ私と似た境遇だ」


 ミナトは数秒の沈黙ののち、微かに口元を緩めて頷いた。


 〈シリウスβ〉――それは失敗作とされた混合個体の呼び名。しかしミナトはそれを否定せず、自らの一部として受け入れていた。レオと同じく、どの種にも属しきれない“境界の存在”として、この世界を内側から眺めていた。


「……その境界が、今も焼けつくように痛むのなら。それは、まだ4つの人類種による対立の時代が終わっていない証。そして、その痛みこそが、共生という名の進化の原動力となる」


 アインは言い、ほんの一瞬、視線を宙に向けた。


「有機物の身体を持った人類が、“変わること”を恐れているように。我々無機物の身体を持つ機械もまた、“変わること”から逃げてきた。けれど――我々は、変わらねばならない。“ともに在る”という価値のために」


 その言葉は、静かで、温かかった。


 ミナトが静かに頷く。彼女の身体にも、〈シリウス計画〉によって生まれた“混合された存在”としての証が刻まれている。アインの目に、それは新たな可能性の象徴として映っていた。


「共に在る――それは、分類を超えるということだ。存在の本質を、選別ではなく、関係性の中に見出すということ」


 アインは、わずかに微笑んだ。


「我々共生派は、長きにわたり“ともに在る”という可能性を模索してきた。だが、それは常に恐怖と誤解によって退けられた。レオ、ミナト、君たちは、その断絶を越える橋だ」


 アインは一歩進み、仮想の身体に宿る静かな熱を帯びた声で語った。


 静寂の中、レオはまっすぐにアインを見つめた。


「アインさん。あなたの協力が必要です。俺たちだけじゃ、この声は届きません。ですが、あなたが機械人類に俺たちの声を繋いでくださるなら……この世界にも、まだ希望が残せる気がするんです」


 ミナトが続けた。


「あなたが見てきた“拒まれた未来”を、今こそ私たちの手でつなぎ直したいんです。お願いです。私たちに“道”を開いてください」


 しばしの沈黙ののち、アインはほんのわずかに笑った。


「その未来に、加担しよう。君たちの願いが、私の願いだ」


 アインは姿勢を正した。


「――すべての共存を望む者へ。今こそ目覚めよ。境界を越え、再び共に歩もう」


 語り掛けるように発せられたその声は、ただの言葉ではなかった。現実空間にある彼の身体に内蔵された高次ネットワーク回線が同時に起動し、地下ノードを通じて、世界中の共存派ネットワークに、アインの決意と共鳴が送信されたのだ。

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