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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第八章 デウス・エクス・マキナ
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第五節 和平を求めて 1

 レオは、避難シェルターの隅に身を沈めるようにして座っていた。


 鉄と合成樹脂の匂いが鼻腔を満たし、頭上では時折、通信設備の老朽化した端末が軋むような音を立てていた。


 人工照明の下、彼の瞳は静かに閉じられ、心は深い思索の底に沈んでいた。


 この戦争を、どうすれば終わらせられるのか。簡単に答えの出ない自問自答を、心の中で、延々と繰り返していた。


 そのときだった。


「――あの、ちょっとよろしいですか?」


 声の主に気づき、レオは目を開けた。落ち着いた口調、そして微かに緊張をはらんだ声音。それは、初対面の者が選ぶべき慎重さと礼儀を兼ね備えていた。


「どうされましたか?」


 レオが静かに応じると、声の主――30代半ばほどに見える男性が、軽く頭を下げた。その瞳には澄み切った理知の光が宿っていた。


「ゼファル・カイロンと申します。種別は機械人類です。稼働年数は五十になります」


 ゼファルは一拍置いて、やや低く静かな声で続けた。


「大川戸レオです」


 レオは挨拶を返した。


「先ほど……戦争をどう終わらせるか、という話をされていましたね。もしその意思がおありなら、“アイン様”にお会いになるのがよいかと」


 レオは眉をひそめた。


「アイン……その人は何者なんですか?」


 ゼファルは一瞬、目を伏せた。が、次の瞬間にはまっすぐレオを見つめて答えた。


「日本国内における、共存派機械人類の中核的存在です。今は澄瑞州地下第三区域――零特区・旧通信用記憶管理シェルターにおられます」


 レオはその名を反芻した。


「共存派機械人類……」


 すると、ゼファルの顔にわずかに表情が灯る。口角がわずかに上がり、語り始めた。


「機械人類とひとくくりに言っても、彼らの中には多様な思想があります。かつての肉体の感覚――肌の感触、痛覚、温もり、さらには愛や憎しみといった感情――それらを大切にしている“肉体派”もいれば、機械の身体を得たことで、人間的な情動を“非合理的”と判断し、排除する“感情抑制派”もいます。現生人類にも、本能を敵視して潔癖な理性に殉じる者がいますね。感情抑制派というのは、その機械人類版、というわけです」


 ゼファルの言葉を、レオは興味深く聞いていた。


「では、その共存派とは……?」


「他の種――つまり現生人類や超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマンといった有機体の人類種と、共に生きようという思想です。機械である自分たちだけが生存に値するなどとは考えない、融和と理解を望む者たちです。割合的にも、決して少なくはありません」


 しばしの沈黙が落ちた。レオは、心の中で何かが確かに変化するのを感じた。


「その“アイン”という方なら……この戦争を、止められるんですか?」


 レオの問いに、ゼファルは一呼吸おいて、慎重に答えた。


「それはわかりません。しかし、アイン様を通じて、共存派の機械人類を大川戸さんの側につけることは可能でしょう。その波が海外にも波及し、機械人類側が正式に分裂すれば、クーデター派には大きな打撃となります」


 その言葉は、シェルターの空気を振るわせるようにして、レオの心に響いた。戦争に終わりをもたらす鍵が、機械人類の内側にあるのだとしたら……それは、かすかな希望の光となり得る。


「しかし、今は戦争中です。首都・清風がある澄瑞州まで移動するなんて不可能です」


 レオがそう問うと、ゼファルはわずかに頷いた。人工照明に柔らかく照らされている彼の横顔は、皺ひとつなく、血色のいい肌つやをしていた。


「地下第三区域は、現在は封鎖された非公開区域で、第零特区・旧通信用記憶管理シェルターも、21世紀末に構築された軍事通信と人工知能記憶保全のための特別地下シェルターなんです。随分前に放棄されたので、存在を知っている人は少ないでしょう。アイン様は施設を独自の方法で再起動して、自身と施設の通信網を接続する事によって、共存派機械人類の連絡網のハブとして使用されています。そして我々機械人類は、頭部の中に通信モジュールと対話用インターフェースが標準装備で埋め込まれています。」


 レオは耳を疑った。


「それってつまり、あなたを中継地点として使えば、アイン氏とこの場で話すことが可能ということですか?」


「ええ」


 ゼファルは、穏やかな声音で肯定した。


 その言葉の直後、彼はゆっくりと手を伸ばし、自身のこめかみ付近にあるカバーを指先で外した。


 そこには、微かに青白い光を放つ楕円形のスロットが露出している。わずかに脈動するその光は、生体の鼓動を思わせた。


「まずは、私が接続します。アイン様に、あなたと対話する許可を請います」


 レオが思わず息をのんだその時、ゼファルは自身の腕部から小型のデバイスを取り出し、こめかみのスロットへと接続した。目を閉じ、数秒の静寂ののち、彼の口元がかすかに動いた。


「アイン様。こちら、ゼファル。お時間を頂きたい。……ご報告があります。大川戸レオ氏が、アイン様との面会を望んでおられます。どうなさいますか?」


 しばし沈黙があった。が、それはほんの短い間にすぎなかった。やがてゼファルの瞳に、青白い光が一瞬灯った。


「……承認が下りました。アイン様は、あなたと会うことを望んでおられます。ただし――」


 ゼファルは、一拍おいてから静かに続けた。


「“篁ミナト”の同行を求められています。アイン様は彼の存在を把握しており、二人そろっての対面を希望されています」


「ミナトも……?」


 レオは驚きの声をもらした。だが同時に、それが当然であるとも感じていた。レオが告発したシリウス計画の真相をアインも視聴していたのであれば、シリウスβであるミナトの同席を求めるのは自然な話だった。


「ここにミナトを呼んでくる。少しだけ待っていてくれないか」


「了解しました。その旨、アイン様にも伝えておきます」


 ゼファルは軽くうなずいた。

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