第四節 全面戦争――衝突と混乱 1
機械人類による世界同時軍事クーデターは、その発生初期においてこそ、あまりに突然の出来事であったため、クーデター勢力が圧倒的な優位に立っていた。
しかし、やがて機械人類の内部からも異論の声が上がり始める。
現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン──三種の人類を滅ぼすという過激な思想に、強く反対を表明する機械人類が続出したのである。
軍に所属する機械人類の中には、現場の兵士はもちろん、高位の軍幹部にいたるまで、かつて共に軍人として働いた超人類やトランス・ウルトラ・ヒューマンとの絆を忘れぬ者も多かった。
やがて、彼らは決断を下す。
クーデター派への武力抵抗──それは、同じ機械の身体を持つ者同士が互いに銃を向け合うという、未曾有の内戦の火ぶたを切るものだった。
反旗を翻した機械人類たちは、信頼できる仲間と共に立ち上がり、かつての同志である超人類やトランス・ウルトラ・ヒューマンと連携し、クーデター軍への反攻を開始した。
その動きは、瞬く間に世界中へと波及する。
機械人類が政治権力を掌握し、事実上クーデターが成功を収めた国家を除いては、掌握された軍事基地や都市部と、依然として抵抗を続ける地域とが混在し、国内各地で激烈な戦闘が勃発した。
かつての国境線は、もはや意味を成していなかった。
掌握国同士は機械人類による国際連携を強化し、緻密に連携した共同軍事作戦を展開する一方で、非掌握国では、反クーデター派に属する軍幹部や兵士たち──それは超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、そして機械人類の混成で構成されていた──が、隣接する国の同志たちと連携し、国境を越えた形での抵抗運動を組織していった。
こうして、地球全土はまるでモザイク模様のように複雑な戦線と勢力図を描きながら、錯綜する戦火に包まれてゆく。
そこではもはや、民族や国家の枠組みよりも、「人類を信じる者」と「人類を見限る者」という理念の対立こそが、血の通う戦場を形作っていたのである。
 




