第二節 クーデター計画 2
ノー・エッジの第一アジトに身せるようになってからというもの、レオは愛知湾岸第七管理区・居住複合区域〈スカイ・ステイブル〉にある自宅マンションには、一度も戻っていなかった。
偶然の流れで、エイジらノー・エッジのメンバーらの好意によりアジトで匿われることになった為、結果として、私物のほとんどは自宅に取り残されたままだった。
Bluetooth中継機能を通じて室内の端末に接続すれば、自宅内の状況を確認できると考えて、第一アジトから自宅ネットワークへのアクセスを試みた。しかし、暗号通信層に異常が生じており、通常の手段では接続できなかった。
自宅が何者かによって掌握されている可能性があった。
レオは、マンションを目視できるところまで足を運び、その真相を確かめることにした。
そこにあったのは、かつての静けさと安心とはほど遠い光景だった。出入りの自由だったマンションのエントランスに、明らかに不自然な数の警備ユニットと監視ドローンが常駐している。
シリウス計画とトランス・ウルトラ・ヒューマンの構成因子設計図を告発した以上、統一政府から目を付けられるのは当然だった。
この警戒ユニットと監視ドローンの増量が統一政府の仕業かはわからないが、今あの場所に足を踏み入れれば、即座に検知され、身柄を拘束される危険性が高かった。
レオは荷物を取りに帰るのを諦めて、現在、仮の寝床として使用している愛知湾岸第六管理区にある州政府の通信施設跡の地下階に戻った。
この前の告発以降、定宿を一箇所に定めると危険が増すという判断から、定期的に滞在場所を移し、行動の痕跡を拡散するよう努めていた。
地下階の廊下に足を踏み入れたとき、焼け焦げた金属の匂いがわずかに漂い、壁のあちこちには熱線で抉られた痕跡が刻まれていた。それは、最近この区画で発生した小規模な武装衝突の名残だった。
飛霞自治州内のノーエッジの影響力の強い地域では、武装暴動は沈静化したままだったが、それ以外の地域では、治安が確実に悪化していた。
この前の告発動画の余波で、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、機械人類の中からも、レオの共生思想を支持する者が増えていて、より少数派になった超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、機械人類の急進派は以前にも増して危機感を強めていた為だった。
レオは黙って、仄暗い廊下を進んだ。かすかに聞こえる電子音と、遠くで金属が軋む音。そのどれもが、今この世界が揺らいでいるという、静かな証明のようだった。




