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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第十一節 カミーユの行方と“沈黙の異物” 2

 天秤の焔のリーダー、グレゴール・アレインは、侵入直後の静寂と職員たちの無抵抗に、むしろ底知れぬ不穏さを感じ取っていた。


 彼は周囲を一瞥し、低く、しかし鋭く通る声で命じた。


「手を抜くな。全フロアをくまなく調査しろ。隠し区画があるかもしれん。外見に惑わされるな。ここは“見せかけ”で造られている可能性が高い」


 その言葉に、隊員たちは緊張を新たにし、それぞれ分担された区域へと散っていった。


 グレゴールは一瞬だけ夜闇に溶けるような施設の壁面を見上げ、沈黙の中に潜む悪意の匂いを嗅ぎ取るように目を細めた。


 鉄の扉が開くたびに、その向こうに広がる光景は、人知を超えた不気味さと深い静寂に包まれていた。


 そこには、生きているはずなのに、生気というものを感じさせない人々が収容されていた。


 隔離房――冷たい白い光に照らされる無機質な空間に、それぞれが一人ずつ収められていた。


 彼ら〈混ざり者〉は、生身の人間の姿をしていた。


 血も通い、呼吸もある。


 ただし、その誰もが、この世界のどの分類にも属さない“逸脱者”だった。


 ある者は、超人類として設計された遺伝子を有しながら、その一部に自然変異を起こし、現生人類としての性質を強く持っていた。


 ある者は、トランス・ウルトラ・ヒューマンへの転換手術に失敗し、知能と身体機能が中途半端に強化されたまま定義不能の存在になった。


 さらには、AI細胞補助型神経回路と呼ばれる未知の脳機能を持ち、生化学的には人間であるにも関わらず、精神構造が通常の範疇を逸脱しているとされた者もいた。


 “規格外”であり、分類という支配の網からこぼれ落ちた存在である彼らは、物理的に生きていても、統一政府の考える制度の上では「存在してはならない者」だった。


 そのため彼らには名前すら許されず、識別コードのみが房の外に掲示されていた。


 いずれも数字とアルファベットの羅列だけ。


 人としての尊厳は剥ぎ取られ、ただの“記号”として管理されていた。


 薬物による神経抑制が、彼らの感情を完全に凍らせていた。


 悲しみも、恐怖も、怒りも、微かな希望すらも、表情のどこにも浮かばなかった。


 椅子に腰をかけ、壁に寄りかかり、膝を抱えて床に伏せる――どの姿も、あまりに静かで、あまりに沈黙していた。


 それは、ただ呼吸、睡眠、食事、排せつするだけの、生存という機能のみが働いているかのような存在だった。


 声はない。動きもない。息づかいすら希薄に感じられるほど、彼らは静謐だった。


 だが、その沈黙は単なる無音ではない。


 叫びすら許されないことへの諦念、理解されることのない孤独、そして人間と定義されないことの恐怖が、声なきままに空間を満たしていた。


 この施設の空気は凍りつくように冷たく、消毒液と人工皮膚の製造薬剤の匂いがわずかに漂っていた。


 まるでここだけ、世界のどこにも属さない“時間の止まった部屋”であるかのようだった。


 それでも彼らは、ただそこにいた。


 分類不能という烙印のもと、誰にも望まれず、誰にも知られず、光の届かぬ闇に沈んでいた。

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