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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第十節:告発と余波――明かされた真相 6

「その後、封印される形で地下に眠っていたこのプロトコルを、我々の技術者が発掘しました。サブニューロ・リンクを媒介に、統一政府のアクセス制限を掻い潜る、裏回線として機能します。今では、世界中の4Nexusの団体がこのネットワークで繋がっています」


 説明を終えたボスナが、そっと指でスイッチを押す。


 その瞬間、装置から放たれた神経パルス信号が、無音の波のように空間を満たし、レオの頭部に届く。


 ニューロリンクが脳と直結し、彼の視覚皮質に映像が注ぎ込まれた。


 目の前の現実が淡く霞み、代わって視界に浮かび上がったのは、半透明の世界地図だった。


 各大陸には無数の光点が浮かび、それぞれが〈4Nexus〉の中継接続点を示している。


 都市、村、海底基地、軌道上プラットフォーム……一つひとつの光点に、無名の存在たちの“集まり”がある。


 レオは思念をひとつ、南米の高原地帯に向けて流す。


 すると、地図の該当箇所がゆっくりと拡大され、点在していた光点のひとつが淡く明滅しながら彼の意識に“接続”を要求してきた。


 思念で光点に触れる。


 次の瞬間、彼の意識には、南米の夜空の下、数百人の若者たちが、電子キャンドルを掲げて静かに集う光景が流れ込んできた。


 誰もが言葉を発しない。ただ、揺れる炎の向こうから、まるで“見られている”ことを理解しているかのように、まっすぐにこちらを見つめていた。


 再び地図へ戻る。


 今度はアフリカ北岸。


 灼熱の太陽が降り注ぐ小さな村落の一角――そこに設けられた〈4Nexus〉の仮設会場では、白い布を掲げた女性たちが静かに集い、無言の行進を行っていた。


 手にした布には、古代文字のような刺繍が施されている。


 祈りにも似た沈黙が、空気に染み渡っていた。


 さらに視線を移し、北極圏へ。氷原の中継ステーション内、半球状の透明ドームの下で、機械義肢の少女が椅子に腰かけ、子どもたちに詩を読み聞かせていた。


 吹雪が外を包む中、会場内には暖かな灯がともり、少女の音声はわずかに震えていたが、言葉の一つ一つが凍てついた空間にじんわりと染み渡っていく。


「……これは……」


 呟きにもならない吐息が、胸の奥で震えた。


 ボスナの声が、彼の意識空間に割り込むように響く。


「彼らには、あなたとの交信が始まる可能性があることをあらかじめ知らせてありました。彼らはあなたが接続するのを待っていたのです」


 ふたたび映像がズームアウトする。


 無数の映像窓が再び天球のように広がり、それぞれの“眼差し”がレオの意識をまっすぐに見返してくる。


「俺の思想に共鳴してくれる人たちが、こんなにも大勢いたのか」


 その呟きに、ボスナがゆるやかに頷いた。


「これが、“今の世界”なのです。あなたと同じ意思を抱いた者たちのネットワーク――“4Nexus”の姿です」とボスナが静かに頷く。


 そして彼は一瞬、ホログラムから視線を外し、向かいにいるエイジに目を向けた。


「長門さん」


 ボスナの声に、エイジは微かに目を細める。


「ノー・エッジも、4Nexusに参加して頂けませんでしょうか?」


 その問いかけには、形式的な打診以上の熱がこもっていた。


 まるで、信頼と覚悟とが交差する、未来への橋を架けるような声音だった。


 エイジはゆっくりと頷くと、凛とした声で答えた。


「喜んで。我々も、あなた方を歓迎します」


 ボスナは嬉しそうな表情を浮かべ、視線をレオに移した。


「大川戸さん、あなたには、この4Nexusの“世界代表”になって頂きたいのです」


 その言葉に、レオは反射的にかぶりを振った。


「俺は世界代表だなんて、そんなものが務まる人間ではありません」


 ボスナはやや声を低め、「あなたこそが希望なんです」と訴える。


「この団体はあなたの思想に共鳴する者達の集まりです。それにあなたはこの前、仰られた。AIノードから呼び出され、4つの人類種間の懸け橋役に選ばれた、と」


 だが、レオはゆっくりと首を横に振った。


「だから尚更です。4つの人類種間の懸け橋として、俺はどこにも属さず、それでいて全てに属している中立的な状態である必要があります」


 ボスナはしばし黙し、そして静かに頭を垂れた。


「……仰る通りです。私の浅はかさでした。お立場も顧みず、軽率な願いを申し上げてしまったことをお詫びします」


 レオは穏やかな声で応じた。


「ですが、あなた方と協力することはできます。私はあくまでも、あなた方の協力者、という立場で、あなた方の活動に加わらせて頂きます」


 その言葉に、ボスナは目を細めた。そして深く、静かに頷いた。


「ありがとう、大川戸さん。協力者という形であっても、参加して頂けるのであれば、我々の活動にとっては大いなる精神的支柱となります」


 ボスナはその言葉に、胸の奥が震えるのを感じた。


 レオを協力者として得られたという事実に、畏れすら覚えるほどの歓喜が湧き起こる。


 作戦室に漂う空気は、先ほどまでの緊張感を残しつつも、どこか敬虔な沈黙に包まれていた。


                *  *  *


 かくして、沈黙の底に閉ざされていたはずの飛霞自治州に、ボスナの来訪によって、外界からの風が流れ込んだ。


 国際的な共生運動を訴える無数の声が、物理的距離を超えて集い、結実してひとつの大きな流れとなったのだった。


 その瞬間、レオの呼びかけは、もはや一人の人間の言葉ではなくなった。


 それは、人類という種が自らの存在を見つめ直すために、自発的に紡ぎ上げた新たな神話のはじまりであった。

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