第十節:告発と余波――明かされた真相 5
レオはエイジに呼び出され、ミナトを伴って作戦室に呼び寄せた。
二人が現れると、エイジの隣には見慣れぬ人物が立っていた。
「こちらは?」と、レオが訝しげに問う。
「この方は池崎ボスナさんというそうです」とエイジが説明を始める。
「朝鮮半島――今は完全に国境が封鎖された地域ですが、そこから船で密入国して来られました、と言っておられます。レオさんの思想に共鳴する団体が作った国際組織を代表して、直接、会いに来たのだそうです」
レオは目を細めた。その言葉の突飛さに、狐につままれたような顔になる。
するとボスナと名乗った男が、軽く一礼して言った。
「無理もありません。日本は現在、極めて強い情報統制下にあります。統一政府の影響により、国際社会の変化はほとんど遮断されている。外界との接触が限られている今、あなたが何もご存知なくとも、それは当然のことです」
レオは眉をひそめ、「どういうことですか?」と問い返した。
ボスナは穏やかに頷き、続けた。
「あなたが〈共生〉を呼びかけて以後、世界各地でその思想に共鳴する人々が、小規模な集団を作り始めました。それらは当初、孤立した存在でしたが、やがて互いに気づき、繋がり合い、連携するようになりました。最初は自治体単位のネットワークが形成され、隣接する市町村へと波紋のように広がり、遂には国家規模の統合体へと成長したのです。その潮流は国境を越え、地球規模へと拡大しました」
「……そんな話、一度も聞いたことがない」と、レオは困惑を隠せずに言う。
ボスナは好意的な笑みを浮かべた。
「それもそのはず。あなたの存在が国際社会にとって重大な意味を持つと判断された瞬間から、日本は統一政府によって徹底的な情報統制を受けました。特に飛霞自治州は、非常事態宣言下で外部通信が完全に遮断されています。ゆえに、あなた方には世界の動きがまるで伝わっていないのです」
横で話を聞いていたミナトが口を開いた。
「国際組織の名前は?」
「4Nexusです」とボスナは答えた。
「4つの人類種――現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、そして機械人類――それらを繋ぐ“結節点”として“Nexus”という語を選びました。今や、全世界に約20万の団体が存在しています」
その数字に、エイジが思わず声を上げた。
「20万だって?」
ボスナは小さく笑みを浮かべ、「そして、参加メンバーの総数は……10億人を超えています」と告げた。
静寂が落ちる。
世界人口の一割以上が、レオの思想に共鳴している――その事実が、重く作戦室の空気にのしかかった。
レオは思わず呟いた。
「そんなにも……多くの人が……」
驚きのあまり、感情が追いつかない。
言葉は断片となり、胸の内に渦巻くだけだった。
するとボスナが一歩進み出て、「少しだけ、お時間を頂けますか?」と訊いた。
頷くと、彼は作戦室の通信装置の操作パネルに手を伸ばし、複雑な手順で裏回線を呼び出した。
「お三方、ヘッドギアを装着して下さい」とボスナが言った。
三人がそれぞれの席で装着すると、サブニューロ・リンクが起動し、眼前にホログラムのメニューが立ち上がる。
「これは……?」とレオが問う。
「かつてパンデミック時代、人類がウイルスに晒された緊急時にのみ使用された旧通信プロトコル、“M-Vault”です」とボスナが説明した。




