第九節:過去の遺産を未来の礎へ――発信と共鳴 3
ショウメイの予測は、寸分違わず現実となった。
州立航空宇宙センター――研究者や技術者の姿はすでになく、施設全体は静まり返っていた。
だがそれは、死の静寂ではない。むしろ、人工の呼吸が規則正しく響いていた。
センターは完全な無人運営に移行して久しく、自家発電設備によって安定したエネルギーが供給されていた。
建屋内では、無数の機械アームが滑らかに稼働し、警備ロボットが決まりきったルートを律儀に巡回している。
各フロアに設置されたAIユニットは、淡々と施設の維持と監視、機能点検を繰り返していた。
人の手を離れてなお、この場所は、正確なプログラムと設計思想に従って稼働を続けていた。
〈ノー・エッジ〉のメンバーは、闇に紛れてセンターへの潜入を果たすと、あらかじめ準備していた作戦手順に従い、機械による制御システムの一部を迅速かつ一時的に手動運用モードへと切り替えた。
端末越しに照らされた手元の設計図と見取り図。
その情報を頼りに、彼らは的確に目標区画を特定し、かつて有人運用のために設けられた旧通信室へと辿り着く。
案の定、目的の通信衛星は、統一政府のネットワークには接続されていなかった。
完全に忘れ去られた存在が、人類に全てを知らせる光となった。
通信回線が接続されるやいなや事前に準備した告発動画を送信プロトコルに乗せた。
それは多感覚同期型でも、高解像立体投影でもない、
シンプルな映像と音声だった。
けれども、その中に込められた真実は、余分な装飾を必要としなかった。
その動画は、旧式の通信衛星へと転送され、そこから世界中へと拡散される。
遮断不能な情報の奔流は、たとえ統一政府が介入を試みようとも、その刹那を突いて、ネットワークの海へと放たれた。
作戦は――成功した。




