表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
167/223

第七節 たとえ分断が深まろうとも 2

「やはりここは、データの保管施設であり、それ以外には読み取りしかできないんだな……」


 レオが呟き、静寂の中に彼の声だけが吸い込まれていく。そして彼は、一つの決断を下す。


「……上手く行くかわからないが、これしかない」


 彼は再び操作卓の前に立ち、傍らの生体認証スキャナへと歩み寄った。


 迷いはない。掌をゆっくりと、けれど確かに押し当てる。


 金属の縁が微かに熱を帯び、スキャンが始まった。


 掌紋。指紋。血流。体温。呼吸。次いで、全身の骨格と神経伝達速度。


 スキャンは完了し、冷たい声が応答する。


「識別不能──権限不所持者。持ち出し不可」


 レオはスキャナの前に立ったまま、はっきりと口を開いた。


「俺はAIノードから選ばれた。四つの人類種の懸け橋として、ここに立ってる。その権限に基づき、このデータの持ち出しを許可してくれ」


 数秒間の沈黙があった。〈沈黙の層〉の全てが一瞬、深く思考するように、息を止めたかのようだった。


「……レオ・アーク。識別済。統一政府AIノードの特例承認に基づき、限定的複製権限を認可」


 ホログラムに浮かぶ警告マークが消え、蒼白い光が操作卓の周囲に帯のように走った。


 レオとミナトは顔を見合せた。


 ミナトが目を見開いて言った。


「いける!」


 レオは無言のまま頷いた。


 静かに、しかし確固たる意志を込めて端末を再び構える。


 さきほどまで彼らの行動を阻んでいた妨害電波は、もう発せられていなかった。


 彼は一枚、一枚と、ホログラムに映し出された情報の断片をスクリーンショットに収めていく。


 静かな空間に、シャッター音すらない。


 ただ、指先の動きと、淡く明滅する光だけが記録作業の進行を示していた。


 ミナトもまた、黙々と動画記録を続けていた。


 手にした携帯端末のレンズが、ホログラフの中に浮かび上がる数多の螺旋構造と符号群を、丹念に追ってゆく。


 その目には冷静さと怒り、そして覚悟が宿っていた。


 映し出されたのは、トランス・ウルトラ・ヒューマンの構成因子。


 その螺旋は、まるで人工の意志が編み上げた鎖のようだった。整然と並ぶ遺伝子コードの連列。その隙間に記された、冷たくも正確な説明文──人工人造遺伝子、それがどう生成され、いかなる目的でレオに組み込まれたかの詳細。そして、全体を貫く巨大な構造体──〈シリウス計画〉の全貌。


 すべてが、確かにそこにあった。改竄される以前の、真実のままの姿で。


 それは単なる記録ではなかった。


 事実の集積でも、研究資料でもない。


 レオにとっては、世界の裏側に潜む真実の片鱗であり、知りたくなかった闇そのものだった。


 記録を終えた時、レオは静かに視線をミナトへと向けた。


 彼女もまた、長く吐息を漏らしながら頷いた。


 その仕草には、言葉にできない重さがあった。


「俺は……」と、レオは低く口を開いた。


「以前、〈シリウス計画〉のような、人類種を超える統合の試みを世に出したら、混乱を招くだけだ、むしろ、人類の分断がより深まるだけだ、だから、当面は公表しないと言った」


 そのときのことを思い出しているのか、彼の声にはどこか迷いが残っていた。


 ミナトがそっと口を開く。


「私もその時は、同じように考えてた」


 だがそこで彼女は言葉を詰まらせ、苦しげに唇をかみしめた。


 レオが、絞り出すように言った。


「だが……こんな常軌を逸した、非人道的な行為は、黙っていたら駄目だ。これは……ただの構成因子設計じゃない。人体実験そのものだ。統一政府は、人権意識がないどころか……完全に狂ってる」


 言い終えるとレオは沈黙した。


 拳を握りしめ、悔しそうに下唇をかみしめる。


 その目の奥には、深い怒りと、どうしようもない無力感が混ざっていた。


 ミナトが一歩近づき、彼の肩にそっと手を置いた。


「あなたの意見に、賛成。たとえ混乱が起きたとしても……それでも、知られなければならないことってある。みんな、知るべきだと思う。統一政府が、何をしてきたのかを」


 その声は、静かだった。


 しかし、そこに込められた決意は、どんな大音声にも勝るほど、強く、深かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ