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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第七節 たとえ分断が深まろうとも 1

 レオが瞼を開け、深い霧の底から、現実へと還ってきた。


 薄暗い天井を見て、ここはどこなのかと一瞬、混乱したが、自分が気絶したこと、ここが深層ノードの最奥、沈黙の層であることを思い出した。


 身体を起こそうとすると、肩にかけられた手が彼を制止した。手の持ち主は、ミナトだった。


「……気がついたのね。よかった」


 その声には、どこかホッとした色が滲んでいた。


 レオは数秒間、彼女の顔を見つめたまま黙っていた。


 直前までの激しい動揺がまるで遠い昔のことのように、今の彼には穏やかな静けさしかなかった。


「……不思議だ」


 レオは呟いた。


「何もかもが整理されていく。あれだけの衝撃だったのに……頭が冴えて、冷静に思考が組み立てられていく……まるで――」


 彼は自嘲するように笑った。


「……まるで、狂うことすら許されてないみたいだ」


 その言葉に、ミナトの眉が曇る。


「レオ……」


「俺には、精神錯乱を起こす自由もないってことだ。そういうふうに……設計されてるらしい」


 ミナトはしばらく何も言わず、そっと彼の手を握った。


 そのぬくもりは、現実の輪郭を再び彼にもたらすようだった。


「そんな風に考えない方がいい。自分を追い詰めるだけよ」


「きみに、俺の何がわかるっていうんだ」


 レオの声に刺があった。


 だが、その瞬間、ミナトの瞳がわずかに揺れた。


「……私も、同じよ。シリウス計画の被験者。あなたと同じように、生まれる前から“意味”を背負わされた存在」


 レオの目が見開かれる。


 言いすぎたと気づき、すぐに彼は視線を逸らし、肩を落とした。


「……すまない。そうだよな。きみも……同じなんだ」


 沈黙が二人の間に落ちた。


 その静寂を破ったのは、ミナトの優しい声だった。


「……あなたのお母さんが、よく言ってたんでしょう。“お父さんの鼻の形も、身長も、脚の長さも、全部あなたの中にあるのよ”って」


 レオはわずかに目を伏せた。


「それって、つまり……ご両親は、あなたをちゃんと“わが子”として愛してたってことじゃないかしら」


 その言葉を聞いて、レオははっとした。


「……この前、きみが特務計画部から持ち出してくれたシリウス計画のことを話した時、母さんは全く知らなかった。だからここで聞いた真のシリウス計画については、当然、知るわけがない。だとしたら父さんも……」


 レオは気を取り直して、中央の操作卓まで戻った。


 一度深く息を吸い込み、わずかに揺れる指先を押さえるようにして、操作卓へと右手を伸ばした。


 蒼く光るホログラムが指先に触れ、柔らかな抵抗をもって応答する。


 彼の視線の先に浮かび上がるのは、無数の層を持ったデータ群──トランス・ウルトラ・ヒューマン構成因子設計図、かつて改竄される前の、自分の出生に関する医学的記録、シリウス計画を記した公文書。


「これをここから持ち出さないと」


 彼の心臓はわずかに早鐘を打ち、背後に立つミナトがそっと問いかける。


「……いけそう?」


 レオは小さく頷き、データの複製コマンドを呼び出そうとした。しかし──


〈複製禁止ロック:作動中〉


 無機質な通知が、まるで嘲笑うかのようにホログラムの片隅に浮かぶ。


 レオは歯を食いしばり、指を動かす。


 再度の試行。やはりコピーは不可能だった。


「それならこうするしかないな」


 ミナトがぽつりと呟く。


 彼女は素早く携帯端末を取り出し、画面の撮影に切り替えた。


 シャッター音はしない。


 だが、即座に空間全体に微かな振動が走った。


 次の瞬間、携帯端末の画面が砂嵐のように崩れ、データが一瞬で消去されていく。


「監視システムが……妨害してる」


 彼女の声に応じて、レオも自分の端末を構え、今度は動画撮影へと切り替えた。


 だが結果は同じだった。


 不可視の妨害電波が空間を満たし、録画中のファイルは開く間もなく壊される。


「複製も撮影も、全部ブロックされてる……情報を外に出す手段が、ない……」


 レオは静かに唇を噛んだ。


 この場にある全ては、文字通りこの〈沈黙の層〉に閉じ込められていた。


 オリジナルのデータにアクセスし、持ち出すには、正規の手続きを経て入室を許可された“特権者”でなければならない。


 だが、レオはその条件を満たしていなかった。


「管理者に連絡を取れないかな?」


 ミナトが言い、すぐさま二人は空間内を駆けるように調べ始めた。


 だが、操作卓に接続された識別端末も、ホログラムプロジェクタも、どれも無反応だった。


 管理者が存在する気配はない──あるいは、目に見える形では「存在していない」。

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