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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第五節 深層ノードの最奥 1

 飛霞自治州の宇宙船発着場に戻ったレオとミナトは、その足で二人用自律移動ポッドに乗り込んで、勤め先の愛知湾岸中央水産研究所に向かった。


 同研究所から研究都市<エリュシオン・ノード>の深層ノードに行けるとミナトが言った為だった。


 空は灰褐色にくすんでいる。


 ミナトはポッドの操縦補助機構を操作しながら、まっすぐ前を見つめていた。


 隣のレオは、無言のまま視線を外へ向けている。破壊された監視塔、焦げ跡の残る幹線道路、風に吹かれて崩れかけた送電ケーブル。全てが崩壊と放棄の証拠だった。


「……静かだね」


 ミナトが、ぽつりとつぶやいた。その声には、感情が乗っていなかった。


「昔は、夕方になると海の匂いが風に乗って強く漂ってきて、研究棟の屋上から眺める街がすごく綺麗だった」


「俺も見たことあるよ。単なる夕焼けなのに、なんか感動的で……」


 ようやく返された言葉には、どこか遠い場所から戻ってきたような響きがあった。


 ポッドは、研究所の入り口前に差しかかった。


 外壁の一部が剥がれ落ちているが、セキュリティゲートは機能している。


 生体認証も、熱センサーも稼働中だ。


 研究所の自立機能は強固なので、外部から物理的に破壊されない限り、機能し続ける。


 二人は乗り物の外に出た。


 かつて白亜に輝いていた研究棟は、外壁が灰と埃にまみれ、今はまるで巨大な棺のように見えた。


 内部ではロボットと機械、アンドロイド、AIが稼働していて、完璧な施設運営と研究・実験の継続が行われていても、流石に外部の掃除にまでは手が回らない。


 この外観を見て廃墟だと勘違いした人が内部に一歩足を踏み入れたら、そのあまりの落差に驚くことだろう。


「それにしても、まさか、自分の勤め先の地下奥深くに、自分の出生に関する重大な秘密が眠っていたとは……」


 レオは、建物の正面に視線を向けたまま、そう言った。


 その声には驚きと共に、迷いと躊躇い、恐れが混ざっていた。確かなことは、彼が真実を知る決意をしていたという事実だった。


 ミナトは、数秒だけ目を閉じたあと、首を縦に振った。


「私も同じ。ずっとシリウス計画を追っていたのだから」


「俺たちにとっての謎が、ようやく解けるってわけだな」


 二人は静かに研究棟の内部へと足を踏み入れた。


 空調は機械的な呼吸のように、一定のリズムで空気を循環させている。


 廊下の照明は柔らかな光を湛え、陰影をほとんど作らず、無機質な均一性が支配していた。


 それは、どこか生き物の体内を連想させるほどに、人工的で静謐な安定感だった。


 施設の自律維持システムは、予想通り、今なお完璧に機能していた。


 地下一階へと降下し、幾重にも設けられたアクセスゲートを通過すると、西翼最奥の低層ノードへの接続口にたどり着いた。


 ミナトは胸元からポータブル端末を取り出し、腰の高さに設置された有機ガラス製の端末ターミナルに接続する。端末は彼女のIDを感知し、即座にシステムと同期する。


 次の瞬間、床下から細かな振動が波紋のように広がり、天井パネルが静かに開いてスキャン装置が滑るように降下してきた。


 それはまるで、眠っていた館内システムが来訪者の存在に気づき、密やかな関心を寄せてきたかのようだった。


 電子音がかすかに響く。それは機械の稼働音であると同時に、この施設の地下深くに隠された機密情報――おぞましい思想に狂った科学者たちの妄執が、今もどこかで棲息しているかのような、そんな錯覚を呼び起こすものだった。


 レオとミナトの全身をスキャニングするのに要した時間は数秒だった。


 光線はあくまで形式的に身体をなぞり、既に登録された情報との照合を機械的に済ませていった。


「中低層ノードへの接続は、私にも許可されてる。ただし……あの深層領域は、統一政府の高官の中でも、ごく限られた役職に就く者しかアクセスできない領域だと聞いてる。試したことがあるけど、私には無理だった」


 ミナトは、ディスプレイに浮かび上がるログイン認証に指を滑らせながら、低く言った。


「でも、ノードに選ばれ、能力を解放されたあなたなら……到達できるはず」


 レオはひとつ、深く息を吸い込んだ。胸の奥から、押し上げられるようにして湧いてくる不安と恐怖。それは覚悟したはずの心を、なおも揺らし続けていた。


「篁ミナト――愛知湾岸中央水産研究所第二研究ブロック・人工水生生命体部門統括責任者、同研究所主任研究員、アクセス権限を確認しました。入層を許可します。第二研究ブロック・人工水生生命体部門研究員、大川戸レオ。アクセス権限は未付与。現在の状態では通行不可」


 人間と瓜ふたつの合成音声を発する装置が機械的な口調で言う。


「彼を同行させる」


「同行者設定を確認しました――補助認証完了。同行を許可します」


 すると低層ノードへと続く扉がゆっくりと開いた。


「気が進まないなら、日を改めた方がいい。心の準備が万端状態にしておかないと、心身に支障をきたすかもしれないし」


 ミナトはそう言って、穏やかな目でレオを見つめた。


 低層ノードへと続く扉が、低い音を立ててゆっくりと開いた。


「……怖いのは事実だ。でも、どれだけ時間をかけたところで、この恐怖から逃れられるとは思えない。こういうのは、勢いで飛び込むしかない」


「……わかった。先に進みましょう」


 二人は静かに歩を進めた。

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