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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第四節 変えられない運命 2

 レオはミューズに聞いた。


「設計図をそんなところに隠して、どんなことになっているのか、実態を隠蔽するって、つまり、人に知られると困るような、何かとんでもない真実が隠されている、ということなのか?」


「おっしゃる通りです。そして、実は――」


 ミューズの声音がさらに低くなった。


「最近、統一政府内の一部勢力と科学者たちが、“種子・プロトコル”を応用して、かつての“シリウス計画”を再現しようと画策している痕跡が見つかりました。今話してきたトランス・ウルトラ・ヒューマンの件とも関連する話です。私があなたをここに招いたのは、それを伝えるためでもあります」


「……“種子・プロトコル”。俺が提出した論文が元になった、ここでの研究だな?」


「はい。本来は、知識と遺伝的資質の選択的継承を目的とした、未来型教育の礎として構想された手法です。しかし、その技術を利用して、あなたをさらに上回る“新たな統一人類”の創造を目論んだ者たちがいたのです」


 レオは首を傾げた。


「ここにいる生命たちは、知性を持つとはいえ、ごく初期のものだ。しかも人類とは程遠い。ここでの実験を、どうやって利用するというんだ?」


 レオの問いに、ミューズは答えた。


「この手法を確立して高速進化を実現し、その高速進化を遂げる空間で人間を生活させることで、人類の進化を加速させる。そして加速させた中からシリウスαをさらに上回る人間を創造する。その他、高速進化の手法で様々な生物の進化を強引に促進し、新種の形質を発見して、その形質を発現させる遺伝子を人間に組み込み、更に優れた人類種を作り出すことも計画していたようです」


 その言葉を耳にした瞬間、レオの瞳に、鋭い怒りの光が差した。


「……人間の命も……人生も……あまりに軽んじすぎている……それでいいと思ってるのか、あいつらは……」


 絞り出すような声だった。その奥には、憤怒と困惑が入り混じっていた。


 そのとき、ミナトがそっと彼の肩に手を添えた。


 細く繊細なその指先は、かすかに震えていた。


「……今聞いたことのほとんどは、私にとっても初耳だった。まさか、あのシリウス計画の背後に、さらに隠された闇があるなんて」


 彼女の瞳には、怒り、悲しみ、そして耐え難い苦痛が、いくつもの色を混ぜながら揺れていた。


「私も、あなたと同じ。創られた存在。『失敗作』として処分されかけて、偶然に助けられ、逃げるように生きてきた……。自分が何者なのか、それを知りたくて――私は、ここに来た」


 言葉は静かだったが、その一つひとつに、過去の傷が刻まれていた。


 しばしの沈黙。やがて、ミナトは穏やかな声で続けた。


「だから、レオ。あなたが今、何を感じているのか……少しはわかるつもり。自分という存在が、最初から“何かの目的のため”に設計されていたと知った時の、あの息苦しさ……逃げ場のない閉塞感……」


 言葉が一瞬、喉で詰まり、沈黙が降りた。けれど、ミナトは意を決したように、しっかりとした声で結んだ。


「でもね、レオ。身体や遺伝子がどんなに設計されたものであっても……あなたの“心”だけは、誰にも設計できない。あなたは、あなたよ」


 静寂が、再びふたりを包んだ。それは簡単に言葉では整理しきれない事実だった。


 レオは目を伏せたまま、小さく息を吐いた。


「……俺が計画的に設計され、生み出された存在だということは……理屈では理解できた」


 その声は、どこか痛みに染まっていた。


「でも……“あらゆる遺伝的制約を越えた”とか、“地球上に存在しない遺伝形質をも発現可能な新たなゲノム”とか……そういう言葉になると、もう、まるで意味がわからない」


 吐息が震え、声が揺れた。


「……だから、知りたい。シリウス計画の全貌が、一体何だったのかを……」


 そのとき、レオはミナトに視線を向けた。ミナトは、静かに頷いた。


「シリウス計画の詳細も、トランス・ウルトラ・ヒューマン構成因子の設計図と全く同じ“沈黙の層”にあります。そこに行けば、きっとあなたが求める答えに辿り着けるはず」


「……わかった。行ってみる」


 レオが静かに言うと、ミューズがふっと微笑みながら告げた。


「私の役目は、これで終わりです」


 その言葉に、レオは思わず顔を上げた。嫌な予感がした。


「……君は、この後、どうなる?」


「この施設は、侵入者の存在が検知されてから五日間のうちに、所定の操作がなされなければ自壊プロトコルに移行します。アクセスログ、内部構造、あらゆる通信回線……すべてが痕跡を残さず消去される」


 一拍、間があった。


「つまり――私は、消えます」


「……そうか」


 あまりにもあっけない幕引きだった。しかし、それはこの時代の知性たちにとって、ごく当たり前の帰結だった。情報に価値がある限り、その器もまた、使命とともに生を終える。変えられない運命だった。


 レオは、そっと球体に手を添えた。


「君は、俺に問いをくれた存在だった。俺が壊れそうになったとき……いつも、少しだけ先を照らしてくれた」


「知性とは、問い続ける力――あなたがそう言ったから、私はそれに従いました」


 ミューズの声が、まるで微笑んでいるように感じられた。


「ありがとう、ミューズ」


「さようなら、大川戸レオ。そして篁ミナト。あなたたちが真実に辿り着き、正しい選択をなさることを……心より願っています」


 記憶球体の電源が落ち、ミューズの存在は、音もなくその場から消えた。


 静寂。けれど、ふたりの胸には、確かにその別れの余韻が深く残っていた。

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