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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第二節 社会の臨界点 5

 レオの共生思想が世界中に伝播し、支持を集めていくにつれ、各人類種の排外主義者達は自らの立場への脅威と捉え、行動を更に過激化させていった。


 とりわけ、テロとその報復が連鎖的に応酬した後は、統一政府の取り締まりにもかかわらず、世界各地で機械人類やトランス・ウルトラ・ヒューマンの急進派による武装暴動が頻発し、都市は次々に荒廃していった。


 それでも、レオが行ってきた数々の演説は、多くの支持者と支援者の手によって、統一政府の情報管制に触れぬ範囲で、さまざまな媒体により繰り返し放送されていた。


『分断は、選択ではない。過去の延長に過ぎない。だが、未来を選ぶことはできる』


 その言葉は、虚空へと放たれた一本の矢のように、誰に届くとも知れぬまま飛び、そして、それを拾い上げた者たちが確かにいた。


 日本の首都・清風の外縁部――灰色にすすけた元工場地帯。


 その錆びた鉄骨と崩れた倉庫の隙間に、人々が火を囲み、小さな生活圏を再構築していた。


 そこには、老人と子供、かつて日本政府の管理官だった超人類の男、配達用の旧型アンドロイドまでが肩を寄せ合っていた。


「……これ、聴いたか? あの若い男の言葉。レオとかいう名前だったな」


 ひとりの中年女性が、自作の携帯端末を掲げながら言った。


 映し出されたのは、粗い映像の中で静かに語るレオの姿だった。


「繰り返し観たよ。耳に残る……っていうより、あの声、嘘くさくなかった」


 焚き火の傍らで服の綻びを縫っていた若い男が、針を止めて呟いた。


「分断が“過去の延長”ってのは、妙に納得したわ。うちの祖母も、似たこと言ってた」


 超人類の女性がうなずいた。


 遺伝子強化されたその眼は淡く光を放っていたが、今そこに宿るのは、深い憂いだった。


 議論は静かに、けれど確かな熱を帯びていた。


 そこに「正解」はなかった。


 ただ耳を傾け、考え、自分なりの答えを探そうとする意思があった。


 レオのメッセージは、こうして不可視の地下水脈のように、小さなネットワークへと静かに滲み出していった。


                *  *  *


 国内で共生の声を広げていたのは、反武装派の境界人組織〈ノー・エッジ〉だけではなかった。


 飛霞自治州と接する琲紅自治州――そこでは、天秤の焔と呼ばれる新興団体の若者たちが、武装暴動で無人と化した州都の通信施設へと侵入し、朽ちかけた設備を再接続して、州全域にレオの音声を流した。


「ハッシュ化して分散送信だ。AI監視網には引っかからない」


 静かに言った青年の声には、抑えきれぬ決意が滲んでいた。


 彼は元労働用アンドロイドだった。


 登録変更を経て機械人類となったが、その後は幾度も差別と排斥にさらされてきた。


 今、彼は自らの選択で、“人の希望”を運んでいた。


 もちろん、すべての者がレオの言葉に耳を貸したわけではない。


 ある若者は冷笑を浮かべ、動画投稿サイトに「偽善者のポエム」と題したコメントを残した。


 また州東部の地方放送局では、中年の風貌を持つ司会者が番組中、辛辣な言葉を吐いた。


「彼の言葉は、装飾されたきれい事に過ぎません。価値のない絵に立派な額縁をかけても、その絵の価値が上がるわけではありませんから」


 それでも、確かに耳を傾ける者はいた。


 少しずつ、けれど着実に、心を動かされる者たちがいた。


 琲紅自治州の寂れた工業都市――かつての工場跡を改装したバラックの一室。


 薄暗い部屋には、現生人類の老婆、青年の姿をした機械人類、トランス・ウルトラ・ヒューマンの女が肩を並べていた。


「……結局、ここにあるのは人の手と心だけだねぇ」


 毛布にくるまった老婆が、外から戻った青年に向かってぽつりと呟く。


「手ならあるし、心は……ま、出せって言われりゃ、出すさ」


 青年の外見を持つ機械人類は微笑みながら暖炉に薪をくべた。


 隣では、トランス・ウルトラ・ヒューマンの女が壊れた調理器具を丁寧に修理していた。


 そこには、ただ“誰かの役に立ちたい”という、静かな祈りにも似た想いがあった。


 種を越えて分かち合われる人の温もり。


 理屈ではない。


 そこにあったのは、レオの言葉を媒介にして芽吹いた、ほとんど目に見えぬほどか細く、けれど確かに存在する新しい社会の形だった。


                *  *  *


 世界は今、崩壊の淵にあった。


 高層都市は機能停止し、世界連邦を構成する国家群と各自治州は、テロ対策の名のもとに統一政府の管理下に置かれ、衛星通信網も同じく統制下で沈黙した。


 希望はまだ、地下に燻る火のように頼りなかった。


 だが、その隙間に、誰かが灯した小さな炎が、確かにひとつ、揺れていた。

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