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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第一節 分断の深化 5

 オーストラリア・イグナスアウリス。


 赤い大地の奥深く、エアーズロック北西の広大な砂漠地帯に、かつて禁域とされた荒野があった。だが今、その地下深くには、まるで大地と一体化したかのような巨大都市が脈動している。地表からは想像もできぬその構造体――それが〈イグナスアウリス〉である。


 この場所は、長らく人の立ち入りを拒む不毛の空間だった。だがその孤立性と、地下に眠る膨大な地熱エネルギーの可能性に目を付けた〈スチール・イデア〉が、水面下で領有権を獲得し、独自に改造・建設を進めたのだった。今やそこは、機械知性が築いた新時代の神殿、中枢機関の要となっている。


 半地下構造の会議ホールには、鋼の意志を宿した者たちが集っていた。空調が静かに唸る空間には、鋭利な光と冷たい沈黙が支配していた。


「AIセンター・エリジオンへの攻撃――調査の結果、〈アスケリオン〉の仕業であることが判明した。トランス・ウルトラ・ヒューマン共は、我々の神経中枢を断とうとしたのだ」


 調査責任者が淡々と事実関係を報告した。


「このまま座して見過ごすのか?」


「統一政府の対応など、形ばかりだ。ならば――我々が動く他にあるまい」


 ホールにこだまする幾つもの声には強い怒りと共に、鋼鉄のような決意が滲んでいた。


 出席者たちの視線が交錯する中、誰かが手を掲げ、卓上のホログラムに座標を映し出す。そこには、地上から静止軌道へと延びる軌道エレベーターの発進拠点――「エルデ・ゼロ」が赤く点滅していた。


「ここを破壊すれば、軌道上に点在する“彼ら”の研究施設、交通網、そして中継ネットワークは壊滅する。見くびった報いを味わわせるには、これ以上ない機会だ」


 軌道エレベーターが結ぶ高高度には、数多のトランス・ウルトラ・ヒューマンの拠点が散在していた。そこは知性と技術の牙城であり、同時に傲慢と支配の象徴でもあった。破壊に伴う損害は甚大だが、機械人類にとっての直接的被害は限定的――つまり、攻撃の正当性は、理屈の上では成り立っていた。


 だが、沈黙を破った一人の男が低く呟いた。


「人類の梯子を、我らの手で折るのか……それは、誇りではなく、ただの暴力ではないのか?」


 彼は冷静だった。目に宿るのは激情ではなく、理性という名の光だった。だがその声は、熱気に満ちた場ではあまりに静かだった。


 次の瞬間、若き外見を持つ男が立ち上がる。人工皮膚の内側で、メカニズムが軋む音を立てる。鋼で構成されたその右腕が、拳を固く握り締めた。


「我々にも軌道エレベーターはある。やるなら、今だ!」


 激情が理性を凌駕した刹那、議場は一つの決意へと傾いた。


 ――数時間後。


 報復は、現実となった。


 彼らはトランス・ウルトラ・ヒューマンによるサイバー攻撃への対抗措置として、エルデ・ゼロの動力中枢へ爆破工作を仕掛けたのだ。人工衛星からの映像には、静止軌道上の研究群の一角から噴き上がる煙と、拡大する火災が映っていた。


 エルデ・ゼロ周辺では、崩壊した軌道エレベーターの断片が都市部に降り注ぎ、地上では広域にわたる火災が発生。建物は崩れ、街は焼け、多くの死傷者を出す惨事へと変わった。


 にもかかわらず、世界のメディアは口を閉ざした。公式発表はなく、断片的な映像が密かにリークされたのみ。世界は沈黙し、真実は闇に沈んでいく。


                *  *  *


 地球と宇宙を繋ぐ“人類の梯子”が損壊したその瞬間、空を見上げていた全世界の市民たちは、遠くに光る微細な閃光と振動を感じ取った。


「戦争でも、始まろうとしているのか……」


 誰もが恐れていた質問が、口に出され始めていた。

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