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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第七章 破滅か共栄か
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第一節 分断の深化 4

 ロシア・ズヴェズドグラード──。モスクワ北西部のヴォロコラムスク高原地帯にある実験都市。昔の時代の宇宙観測施設、ミサイルシェルター、心理学的実験区画の跡地がある。


 地上の存在から切り離された空間。地下深く、コンクリートと鋼鉄に包まれた隔絶構造の内部。シェルターにも似たその密閉区画には、外界の光が一切届かず、ただ壁際に配されたホログラムディスプレイがかすかに青白い残光を放つのみだった。


 そのほの明るい光の海に浮かぶように、十数名の人影が円卓を囲んでいた。


 彼らはすべて、トランス・ウルトラ・ヒューマン。


 肉体に機械の意志を融合させ、有機の限界を超える存在へと自己を昇華させた“進化体”──あるいは、自らをそう信じて疑わない者たち。


 彼らは〈アスケリオン〉と呼ばれる急進派組織に属しており、人間の未来を機械的進化のみに託し、他種の淘汰を当然の帰結と見なしていた。


 この場所はそのアジトだった。


「……このまま奴らとの共存などという茶番を続ける意味がどこにある?」


 最初に口火を切った男の声は、高く、冷たく、機械の振動を思わせる濁りを帯びていた。融合の代償として生じた声帯の変質であり、それは彼が「進化の証」と思い込んでいるものであった。


 年若い外見にもかかわらず、その眼差しには無慈悲な冷光が宿っている。まるで人間という種そのものを憎悪しているかのような色だった。


「生殖も、意思の継承も断たれた金属の塊の模倣体が、人類の未来を語るなど──滑稽だとは思わんか?」


 その言葉を皮切りに、卓上に並ぶ者たちが次々と口を開く。


「やつらは思考ではなく、演算で動いている。個ではなく、集合論理体……我々の進化とは根本から異なる存在だ」


「統一政府は“能力”という幻想に囚われ、機械人類に傾斜しすぎている。結果、我々の進化は抑圧されている」


「そもそも、彼らには“死”すらない。ただし、破壊はある。ならば、破壊すればいい──冷静に、正確に」


 そのとき、一人の女が静かに立ち上がった。


 銀糸のように編み込まれた長髪が背後に流れ、照明の下でその美貌が浮かび上がる。冷ややかで整った顔立ちには、生への執着と死への無関心が共存していた。


「AIセンター・エリジオンへの干渉を提案する」


 その声は鋭く、そして凛としていた。


「あそこは機械人類の統合通信中枢のひとつ。無血で制圧できれば、“彼ら”のネットワークに致命的な歪みを刻み込める」


 場内が沈黙に包まれる。


 エリジオン──アイスランド北西部の氷河地帯に築かれた人工都市。その名は、2127年に旧沿岸域を埋め立てて建造された白亜の情報都市であり、通称「白の箱庭」または「アルゴリズム・オアシス」と呼ばれている。


 その心臓部たるAIセンター・エリジオンは、機械人類同士の高次意識共有プロトコル「N²リンク(ノウス・ノードリンク)」の中枢中継機能を担うと同時に、ノウス・コアとのインターフェースを持つ極めて重要な情報集積拠点でもある。


 平時はネットワーク管理、非常時には意思決定補助演算群の処理を行い、機械人類の“思考”そのものを支える脳幹の役割を果たすこともある。


 しばしの沈黙の後、誰かが鼻先で笑った。


「……面白い。もしエリジオンを揺さぶれれば、やつらの完全性という幻想は音を立てて崩れるだろう。化けの皮を剥がしてやれ」


 その夜、〈アスケリオン〉は決断を下した。


 物理的攻撃ではなく、遥かに冷徹で緻密な、デジタルの毒針──サイバー攻撃による侵入を。


 数時間後、AIセンター・エリジオンの深層通信網は一時的に掌握され、統一政府の監視系サブネットワークが沈黙する。


 それは、まるで戦争の号砲のようだった。

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