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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第十六節 緩やかな連帯 3

 そのとき、どこか乾いた、だが耳に心地よい電子的な音が室内の空気をわずかに震わせた。


 応答するように重厚な扉が静かに開き、若々しい風貌の男が入ってきた。


「会議が終わりました。お二人をリーダー室にお連れしろとのことです」


 年の頃は二十代半ばといったところか。短く刈り込まれた髪と、無駄のない所作からは、訓練された者特有の緊張感が滲んでいた。


「会議が終了しました。リーダーが、お二人をリーダー室へお通しするようにとのことです」


 男の声は低く落ち着いており、言葉の選び方にも慎重な配慮が感じられた。


 レオとミナトは互いに軽く頷き合うと、立ち上がり、その男のあとに続いた。


 通路には照明が抑えられ、冷たい鉄と無機質な空気が支配している。


 それでも、足音だけが微かに響くその空間には、どこか守られているという不思議な安心感があった。


 やがて彼らは再びリーダー室の前へとたどり着いた。


 男は扉の前で一度立ち止まり、静かに扉を開けた。


 中に入ると、グラディスが既に彼らを待っていた。


 彼の背後には、見慣れぬ男の姿があった。


 整った顔立ちと穏やかな目元に、鋭さを内包した知性の光が瞬いていた。年齢は三十代前半といったところだろうか。


 無駄のない姿勢と、立ち居振る舞いに一種の訓練された規律を感じさせた。


 誘導してきた男は、無言で一礼すると、扉の方へと向き直り、気配を殺すように静かに退室して行った。


 レオが一歩前へ出て、静かに問いかけた。


「どうなりましたか?」


 グラディスはわずかに頷き、沈着な声で応えた。


「〈ノー・エッジ〉との連携が正式に決定した。彼らの理念と我々の信念との間に、明確な共鳴が確認できたからだ。そして、この男を使者として連れて行って欲しい」


 その言葉を合図のように、男が一歩進み出て、背筋を伸ばしたまま深々と頭を下げた。


「佐藤ショウメイと言います。“混ざり者の隠れ家”リーダー、グラディス・カール・ヴァンデルメイユの使者として、また代理として、お二人に同行させていただきます」


 その自己紹介には、形式的な丁寧さの中にも、任務に対する明確な覚悟がにじんでいた。名乗りを終えた男の態度に、レオは無言で頷き、ミナトも静かに目を細めた。


 グラディスは、そんな三人を見渡しながら、やや表情を緩めて言った。


「今から戻るとなれば、夜間に危険地帯を通過せねばならない。この地域の地形と警戒区域の配置は君たちも知っているだろう。今夜はここで一泊していってくれ。部屋はすでに用意してある」


 それは、丁寧な申し出であると同時に、信頼の証でもあった。ミナトが小さく頭を下げた。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 その夜、レオとミナトはアジトの一角にある空き部屋をあてがわれた。


 地下に広がる“混ざり者の隠れ家”の空間は、人の温もりを感じさせ、そこに灯る照明は必要最小限ながら、誰かがきちんと生活を営んでいるという確かな証として機能していた。


 レオは、ミューズが呼んでいる、というグラディスの話が頭から離れず、よく眠れなかった。


 翌朝、薄明るい人工灯のもと、三人は出発の準備を整え、スリップランナーのもとへと向かった。


 機体に乗り込むと、ミナトが飛霞自治州へと戻るためのルートを設定する。


 無音の中を滑るように走るスリップランナーの車内では、必要以上の会話はなかったが、そこには確かな信頼と目的が共有されていた。


 やがて飛霞自治州へと戻った一行がスリップランナーを降りたそのとき、ちょうど〈ノー・エッジ〉のアジトから、レオとミナトの帰還を聞いた長門エイジが、迎えに現れた。


「二人ともおかえり! 無事に戻ってきてくれて、なによりだ」


 そう言って微笑むエイジの顔には、安堵と共に、僅かに新たな展開を予感するような光が宿っていた。その視線が、レオの傍らに立つ男へと移る。


「こちらは?」


 問われたレオは、静かに頷いて応えた。


「思った通り、救援者たちは“分岐前の思索者たち”の残した理念を継ぐ人々が立ち上げた組織だった。今は“混ざり者の隠れ家”と名乗っている。泰平自治州側の地下、かつてのデータセンター跡地に拠点を持っていた。話し合いは順調に進んで、正式にノー・エッジと連携してくれることになった」


 レオの言葉が終わるのを待つようにして、佐藤ショウメイが一歩前へ出た。


「“混ざり者の隠れ家”リーダー、グラディス・カール・ヴァンデルメイユの代理人、使者として参りました。佐藤ショウメイと申します。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします」


 彼の礼儀正しい態度と言葉に、エイジも穏やかな表情を返しながら右手を差し出した。


「俺は〈ノー・エッジ〉のリーダー、長門エイジだ。こちらこそ、よろしく頼む」


 差し伸べられた手を、佐藤がしっかりと握り返す。二人の手が重なったその瞬間、小さな連携の第一歩が確かに結ばれた。


 レオが静かに口を開いた。


「少し、話したいことがある。あとで……時間をもらえないか」


 その声音には、いつもの無邪気さも冗談めかした軽さもなかった。


 何かを押し殺すような、あるいは言葉の重みを慎重に選んでいるような、そんな緊張がにじんでいた。


 エイジは顔を上げた。


 レオの目が真っ直ぐにこちらを見ている。


 それだけで、内容が軽いものではないと悟れた。


「……午前中、十一時頃なら時間が取れます」


 言いながら、エイジはほんのわずかに身を固くした。


 レオが何を話そうとしているのかは分からない。


 ただ、深刻な内容かもしれないと一瞬だけ思い、その胸の奥に、ごくごく小さな、不安というにはあまりに曖昧な影のようなものが差した。

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