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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第十五節 夜明けの証明 1

 長い沈黙の回廊を、足音だけが反響する。地中深くへと降りていくに従い、空気がわずかに変わっていくのをレオとミナトは感じ取った。


 回廊の奥から漏れるわずかな光。壁面に残された数十年前の標語。「言葉を話し 心を持つ者は みな等しく人間である」。


 しばらく進むと、内部が廃墟ではなくなった。仄暗い光の中に、いくつもの簡易寝台と、稼働するAIユニットが見える。


 そこは、「登録不能者」たちが、匿名のまま簡易医療AIの処置を受け、生活できる空間になっていた。


 かつて情報処理のために稼働していたデータセンター跡地は、いまや非中央集権型のネットワーク・ハブとして生まれ変わっていた。


 レオとミナトはしばしの間、その場で立ち止まって見つめた。


 無機質なコンクリートの天井、微かにうなる冷却ファンの音、再起動されたモジュールから放たれる青白い光。


 そして、ベッドの上で静かに横たわる子どもや老人たち。医療AIが、まるで慈しむような動作で彼らの体を診ている。


 現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマンもいれば、修理を受けている機械人類までいる。


 目の奥に、静かな戦慄が走った。これはただの拠点ではない――これは、人類種を越えた共生社会への胎動だった。


 4つの人類種が、分類を越えて共に生きるための、小さなモデルケース。


 ノー・エッジで始まりつつある光景が、ここでも見られたのだ。


「……レオの思想に共鳴する人達の輪が、確実に広まっている」


「俺の活動も、少しは実を結んでくれていたようだ」


 ミナトは感動していた。4つの人類種間に横たわる激しい差別感情。異なる人類種間でいがみあい、憎しみあう現実。共生は理想論じゃないかと思うこともあった。


 ノー・エッジで生じている共生の萌芽のようなものは、局所に見られる特異な事例で、全体に波及していくのは難しいのではないか、そんな気がしていた。


 違うということを、可能性はあるのだということ、目の前の光景が教えてくれている。


 目の前の十字路。その静寂を破るようにして、横道の陰から三つの人影が現れ、ミナトとレオの行く手を塞いだ。


 先頭に立つのは、超人類と見受けられる男。残るふたりは、どこか懐かしさすら感じさせる、旧式型のアンドロイドだった。年老いた現生人類の男は、深い皺が刻まれたその顔に、氷のような視線を浮かべていた。


「止まれ。ここは部外者の立ち入りが禁じられている……お前たちは、何者だ」


 男の声は、警告というよりも、見定めるような色を帯びていた。


 それに応えたのは、レオだった。静かだが、怯みのない声音が、ひとすじの風のように空気を裂いた。


「俺たちは、飛霞自治州から来た者です。あなた方が以前救出した“登録不能者”の足跡を追って、ここまで来ました」


 男の目がわずかに細められ、数秒の沈黙が流れる。やがて、背後のアンドロイドの一体に視線を送り、低く命じた。


「……確認を」


「失礼する」


 アンドロイドの一体が前へ進み出ると、レオとミナトの額すれすれに指先を翳した。その動作と共に、彼らの全身を包み込むようにして、生体スキャンと簡易的な思考読取が始まる。


「武装の兆候なし。生体信号は安定。敵対行動の傾向も確認されません」


「……なるほど」


 男は再び、レオとミナトへと視線を戻した。


 その目には、見極めようとする色が残っていた。


「“追ってきた”と言ったな。だが、ここにたどり着ける者など、普通はいない。どうやってこの場所を知った?」


 今度はミナトが一歩前に出た。


 彼女の白いコートの裾が、冷気に揺れて小さく波打つ。


「私たちは、GeoScryとリヴィアスを併用して、救助機が停止したデータセンター跡地まで進みました。そのとき、旧世代AIのパルスに酷似したものが検出された。……だからわかったんです」


 ミナトの声には、確かな意志が宿っていた。


 レオが、それに重ねるように言葉を継いだ。


「機体に刻まれていたマークが、“分岐前の思索者たち”と呼ばれていた集団のものによく似ています。もしや、あなた方はその生き残りなのではありませんか?」


 男の目が、わずかに大きく見開かれた。


 忘れられたはずのその名を、まさか他者の口から聞くとは――そう言わんばかりに。


「……その名を、どこで知った?」


「父の名は、シリウス・ゼノン・アーク。かつて“分岐前の思索者たち”と信念を同じくした科学者です」


 男の眉が僅かに動き、場に静寂が満ちた。


 その沈黙のあと、呟いた。


「どこかで見た顔だと思っていたが……きみは、あの演説の青年か」


 その声音に、敵意の色はもはやなかった。

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