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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第十四節 沈黙のアクセスハッチ 1

 夜明け前の空は、まるで何かを待ちわびるように沈黙していた。乱れ飛ぶドローンの残骸が火を噴き、煙は黒く、空を裂いていた。だがその下、誰にも知られぬままに、ひとつの救出劇が静かに進行していた。


 飛霞自治州の西端にある斗馬とば市の、廃棄された配給所。その地下通路に、怯えた目をした人々が身を寄せ合っていた。彼らは「登録不能者」たち——統一政府によって記録されることを拒まれ、また自らも拒んだ者たちだった。


 この地域は、現生人類、超人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、機械人類が混在する地域で、多数派を形成できる人類種が不在だった。


 また、機械人類、トランス・ウルトラ・ヒューマン、超人類の支配地域に囲まれ、〈ノー・エッジ〉の影響も及ばない孤立地域でもある。


 隣接地域を支配するトランス・ウルトラ・ヒューマン〈オーバーコード〉が同地の領有を宣言し、同じく別の隣接地域を支配する機械人類の〈スチール・イデア〉も領有を宣言。


 激しい戦闘が連日繰り広げられる事態となった。


 統一政府の非常事態宣言で州境が封鎖されているから、隣の州に逃げ出すことも容易ではない。戦闘激化前に避難できなかった人達が取り残された格好となり、生き延びる術もなくなっていた。


 無人機によって先導された小型ホバーユニット、そして旧式の通信プロトコルを使いながら正確に制御されるAI支援型の搬送チームが救助の為に降り立つ。正体不明の第三の勢力だった。


「怖がらないで。君たちの存在は“無効”なんかじゃない。ここから先では、IDも、種別も、関係ない」


 人工声帯を通した中性的な声が響く。やや機械的なイントネーションは、かえってその言葉に誠実さを宿していた。


 風の噂では、非公認の民間AI技術者たちと、かつて監視センターに所属していた内部改革派の残党とされ、拠点に運ばれた「登録不能者」たちは、簡易医療AIによって処置を受け、匿名のまま生活できる場所へと誘導されているという。



 ノー・エッジ第一アジトの作戦室は、かつて中央管理区画として機能していた旧シェルターを改修し、戦術指令の中枢として蘇らせた空間である。


 鉛合金と耐爆強化コンクリートによって外界から完全に遮断されたその室内には、無骨な静寂と緊張が漂っていた。


 その中心に据えられたのは、円卓状の作戦台。表面の強化ガラスには、各地の情勢を映し出すホログラムが揺らぎながら浮かび、青白い光が部屋の天井をほのかに照らしていた。


 その周囲には、レオ、ミナト、ノー・エッジの主要メンバー、そしてリーダーであるエイジが椅子に腰掛け、沈黙のうちに映像を見つめていた。


 ミナトの端末には、動画プラットフォームを通じて拡散された一本の記録映像が再生されていた。それは、自治州西端の市街で発生した不可解な救助劇の一部始終だった。


 まず、撮影場所特定アプリ《GeoScryジオスクライ》に映像データを読み込ませる。正確な撮影日時は不明だったが、月までは判明していたため、暦上の該当月を入力し、併せて緯度・経度も手動で指定する。


 アルゴリズムは即座に作動し、映像内に映り込んだ建造物や地形、太陽の位置を解析。空間方向を東西南北に補正した上で、太陽の軌道と照合し、経度・緯度の情報と組み合わせることで、撮影された具体的な地点と、ある程度正確な日付、さらにはおおよその撮影時刻までを逆算して表示した。


 簡潔にして強力、まさに現代の映像解析を一歩先へと押し進めた、極めて実用的なツールである。


 映像内の撮影地点と大まかな撮影日時はわかったので、次は映像を繰り返し映し出し、それ以外の手掛かりを探る。


 崩壊しかけた建物の上空を捉える監視カメラの揺れた映像。逃げ惑う群衆の中に、突如として現れた漆黒の無人機。その機体は、煙と火花の中を縫うように飛行し、負傷者を巧みに回収すると、痕跡も残さず消え去った。


 映像の中で唯一明確に記録されていたのは、その機体に描かれた不可解なマーク――幾何学的な三重の螺旋、その中心でわずかに揺らめく円環だった。


「調べたけど、あの機体を使用している政府系・民間系の組織は確認できなかった。あのマークも、既知のどの記号体系にも一致しない。データベースは全部あたったけど、まったく引っかからなかった」


 ミナトは画面を指差しながら、苛立ちを隠さずに言った。


「俺も現地の人々から情報を集めているけど、誰もあれを見たことがないらしい」


 エイジも腕を組み、深くうなずいた。


 レオは黙って、端末に映し出されたその謎のロゴを凝視していた。その形状は、彼の記憶の奥に、わずかに眠っていた記録を呼び覚ますものだった。


「……似たものを、父のアルバムで見たことがある」


 レオの呟きに、ミナトとエイジが顔を上げた。彼の視線は、端末に映るロゴに釘付けになったまま、わずかに揺れていた。

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