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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第十一節 失踪 ――後編:カミーユが託したもの 1

 深夜の研究棟は、まるで生命を失った巨人の骸のように、静まり返っていた。


 長く延びた廊下を、レオの足音が吸い込まれていく。


 建物の奥深くへと続く道を、彼は躊躇なく進んだ。無論、警備網はすでに解析し、無力化してある。


 けれど、それでもこの静寂には何かしら背筋をなぞるようなものがある。


 入所後、レオはミナトとは別行動を選んでいた。ミナトが自分の研究室へと向かう一方で、レオは、自らが使っていた大川戸レオ研究室の扉を開いた。


 室内では研究用アンドロイドとアシスタントアンドロイドが仕事しており、AIと機械も平常運転で仕事していた。レオと日野がいない間、アンドロイドの電源をオンにして、彼らの代わりに働かせていた。


「大川戸博士、あなたは休職中です」


 研究用アンドロイドが話しかけてきたので、レオは「ちょっと気になって様子を見に来ただけだよ」と答えた。


「わかりました。その気持ちは私にもわかります。報告はしませんから、ごゆっくりどうぞ」


 研究用アンドロイドはそう言って仕事に戻って行った。


 レオは机の上の端末に手を伸ばし、電源を入れた。モニターが静かに光を放ち、懐かしき自身のファイル群が姿を現す。研究記録、実験計画、個人的なメモ――。


 しかし次の瞬間だった。


 レオの視界が、突如として真っ白に染まった。


 全感覚が凍りついたような感覚の中で、彼の意識は肉体を離れ、どこか別の空間に吸い込まれていた。


 そこは――白一色の、無限に広がるサイバー空間だった。


「……レオ」


 呼びかけは、まるで風のように滑らかだった。振り向くと、そこには、カミーユが立っていた。


 ピンクのワンピースの裾を揺らしながら、彼女はかつてと変わらぬ眼差しでこちらを見ていた。けれど、その瞳の奥には、深い絶望と静かな覚悟が宿っていた。


「……どうして、君がここに……」


「やはりあなたは、特別な人みたいね。他の人にも同じように接触を試みたけど、この空間との接続が可能だったのは、あなただけだった」


 カミーユに言われて、AI〈ノード〉から言われた“能力を解放する”という言葉を思い出した。


「AI〈ノード〉から言われたんだ。俺は4つの人類種の懸け橋になるべき人間で、その為に能力を解放するって。それ以来、別人になったみたいに五感が研ぎ澄まされて、実際に能力も目に見えて向上した。今、きみとここでこうして話していられるのも、恐らくその恩恵なんだろう」


 するとカミーユは納得して頷いた。


「あなたはノードから選ばれた新しい時代を作る象徴だったのか。伝えたいことがあって接触したんだけど、これは、あなたの宿命なんだね」


 彼女の声は、音でありながら音でなく、意識の深層に直接触れてくるようだった。


「伝えたいことって?」


「私にはAI補助型の神経回路が組み込まれていた。それを通じて、私は自分の見たこと、感じたこと、考えたことを、直接データとして記録することができた。普通の映像や音声じゃない。感情の波形、思考の軌跡、周囲のセンサー情報、脳神経の反応……あらゆる多次元的情報を、ある種“主観に限りなく近い”記録として保存しておける仕組みだった」


 彼女は静かに視線を逸らし、遠くを見つめる。


「あの隔離施設に入る前、政府の政策に不信感を持って調べ回っていた私は、ある情報にたどり着いた。それは、政府にとってあまりに都合が悪い真実だった。だから、私は隔離された。肉体は拘束され、自我はこうしてサイバー空間の“檻”に閉じ込められた」


 白い空間の一部が、一瞬だけ波打つように揺れた。それは、カミーユが今なおこの仮想牢獄の中で監視を受けていることの証だった。


「その檻から外に出る術はない。でも、わずかに外と“繋がる瞬間”はある。その瞬間を何度も探し続けて、出られた時に他の人に接触を図ったけど、気づいて貰えなくて、ようやく、接続できたのがあなたなの」


「カミーユ……」


「お願い、私が集めた情報を、あなたに託す。この座標を覚えて。ここに私の全てがある」


 彼女の指先が、空間にいくつかの符号を刻む。その記号列は、まるで意識の深層に直接焼き付けられるかのように、レオの脳に沈んでいった。


「これは絶望的な記録。私はこのまま、もう助からないのかも知れない。でも、世間の人たちがこれを見てくれたのなら……私の存在は無駄じゃなかったって、そう思えるから」


「必ず助けに行く。だから待っていてくれ」


「気をつけて。彼らは、自分たちの本当の姿を晒すことを決して許さない。私がこうなったように、あなたも……いずれ狙われるかもしれない」


 彼女が語り終えると同時に、空間が急激に収束を始めた。白い世界がひび割れ、亀裂が走り、レオの感覚が急速に現実へと引き戻される。


 次の瞬間、彼は自らの肉体へと戻っていた。モニターの光が眼前に揺れ、手は、冷えたキーボードに触れていた。

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