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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第八節 境界人全面攻撃計画 4

 重厚な扉が滑るように開いた瞬間、空気の密度が変わった。時の流れがそこだけ停止したかのように、凍てつく沈黙が支配していた。


 天井は遥かに高く、漆黒の金属とガラスで構成された天蓋からは、星辰を模したような光ファイバーの粒子が、呼吸するかのように脈動しながら瞬いていた。


 壁際には複数の巨大スクリーンが並び、都市の中枢、軌道上の衛星、グローバルな通信網――それらの膨大な情報が立体映像として浮かび上がり、あたかも一つの意識と同化して鼓動しているように見えた。


 中央には、半球状の台座と、有機的な曲線を描いた椅子が設けられていた。


 そしてその椅子に、〈オーバーコード〉のリーダーは静かに身を預けていた。


 動くことなく、ただ存在するという圧倒的な気配。まるで彫像が意志を持ったかのような静けさに、その眼差しだけが異質な光を放っていた。


 床から伸びる無数のケーブルが、まるで神経の束のように彼の背後へと繋がり、周囲の装置と融合するように埋め込まれていた。


 その光景は、機械と肉体の境界を曖昧にし、この空間が彼と共に「生きている」ことを否応なく実感させた。


 装飾は一切なく、冷徹な機能美が隅々まで貫かれていた。その厳格な美しさは、権威と恐怖、統率と無慈悲の象徴として、言葉を持たぬ圧力となり、レオたちを迎え入れていた。


 だが、玉座と見まごうその椅子だけは異彩を放っていた。中世の王権を思わせる、金色に輝く意匠が施され、唯一そこにのみ「象徴としての威厳」が宿っていた。


 その人物――人か、神かも定かならぬ存在は、一見して常人とはかけ離れた“異質”を纏っていた。


 銀糸を編んだような髪は長く、性別も年齢も曖昧ながら、若さと老成が不思議に共存していた。


 陶器のように滑らかな肌に、曖昧な微笑をたたえたその表情は、あらゆるものを受け入れながら、同時に拒絶する矛盾の象徴であった。


 瞳はとりわけ異様だった。淡く透けた琥珀色の虹彩が、静謐にして深淵なる光を湛えており、見る者の思考を一瞬で射抜き、沈黙のうちに無限の演算を繰り返しているかのような印象を与えた。


 身に纏うのは無地の黒いコート。だがその質感は、光そのものを吸い込むように沈み込み、ただそこにあるだけで空間の重心を奪う圧倒的な存在感を放っていた。


 それは、成熟の果てに至った沈黙ではなかった。静寂すら支配しようとする、若き意志の在り方だった。


 彼、あるいは彼女は、もはや“リーダー”という器に収まる存在ではなかった。〈オーバーコード〉そのもの。理想と狂気、秩序と崩壊を同時に内包した、支配という名の神話の化身だった。


「君たちは境界人への攻撃計画を進めていると聞いた。手を引け。さもなくば……この爆弾を起爆させる」


 レオの声は静かだったが、その内に込められた意志は重く、明確であった。


 リーダーは薄く笑んだ。


「きみたちは非武装ではなかったのか?」


「「俺達は武器を手に取って戦わないとは言ったが、争いごとを回避するための“脅し”までしないとは言っていない」


 そのとき、扉が激しく開き、息を切らせた構成員が飛び込んできた。


「リーダー、大変です……! 本拠地周辺の通りという通りに、住民たちが、手に『境界人バウンダリーズは殺させない』のボードやプラカードを持って、自宅の前に立ち並んでいます。ただの抗議ではなくて、この土地全体で拒絶するという意思表示をしているみたいです。しかも参加しているのは、機械人類、超人類だけじゃなく、同胞のトランス・ウルトラ・ヒューマンたちまで!」


 リーダーは静かに目を伏せ、わずかな沈黙ののち、低い声で問うた。


「……どの程度の規模だ?」


「最新のドローン解析によれば、住民全体の五割以上が……いえ、増え続けています! 拡大傾向は止まりません!」


 報告を受け、リーダーは静かに椅子へ身を預けた。そして、深く内側から滲むような嗤いが漏れた。それは敗北ではなく、何かを悟った者の笑いだった。


「……純血の民まで味方につけたか。なるほど」


 琥珀の眼差しが虚空を捉える。


「大川戸レオ、と言ったな」


 リーダーがレオの目を見据える。


「ああ」


「どうやらただ者ではないようだな」


「買い被り過ぎだ。俺はどこにでもいるただの人間だ。今回の件に関しては、きみらのやり方に賛同できないという人が大勢いただけの話だ」


 レオがそう答えると、リーダーが愉快そうに笑った。


「これだけのことをしてただの人間ではないと来たか。我々に勝ち目はないわ。――よかろう、手を引こう」


 リーダーは身を起こし、周囲に控える部下たちに視線を走らせた。その瞳は静かで、もはや戦意の欠片すら帯びてはいなかった。


「全員に通達を。境界人への一切の敵対行動を、今この瞬間から禁止する。手出しは無用――これは命令だ」


 張り詰めかけた空気が、一言で氷のように静まった。部下たちは互いに目を見交わしたが、やがて一人、また一人と無言で頷き、迅速に指示を伝達するために散っていった。

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