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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第七節 ノー・エッジ(No Edge)との出会い 4

 演説を始めてから、レオの自宅がある居住複合区域スカイ・ステイブル周辺で暴徒がうろつくようになり、自宅マンションへの投石、放火予告、壁への落書きが行われるようになった。


 ある時などは、レオが演説を終えて帰宅すると、自宅に『お前を“融合”してやる』というメッセージと共に機械の部品を送りつけられていた。


 嫌がらせは日増しに悪化して行き、自宅への襲撃未遂事件が起きたり、マンションを警備する監視ドローンの映像に身元不明の人影が夜ごと自宅付近に現れていたことが記録されるようにもなった。


 身の安全も危うくなってきたが、既に州警察は機能しておらず、身辺警護を依頼することは不可能だった。


 そんな日々を送る中、演説を終え、ステージから降りたレオは、冷たい風のなかで軽く息をついた。


 広場には、いつもよりも多くの人々が立ち止まり、彼の言葉を静かに受け止めていたように見えた。わずかながらも、確かな変化の兆しが、空気の中にあった。


「人が増えてきたね。特に混ざり者以外の人達の増え方が凄い」


 ミナトが声をかける。順調な滑り出しに気をよくしている。


「そうだな」


 レオも自身の活動の効果に実感を得る。


 その時だった。視界の端に、どこか見覚えのある青年の姿が映り込んだ。


 彼は人混みの中からゆっくりと近づいてくる。レオが顔を上げると、その青年――長門エイジは微笑みを浮かべて立っていた。


 黒のコートの裾が風に揺れ、彼の眼差しは以前よりも強く、まっすぐにレオを射抜いていた。


 エイジの背後には、年齢も、服装も、種も異なる三人が立っていた。その眼差しだけが、まるで同じ熱に焼かれているかのようだった。


「レオさん、それにミナトさん……またお会いしましたね」


 その言葉に、隣に立っていたミナトが、彼の顔を覚えていたので会釈した。


「君は……あの時の」


 エイジは頷いた。


「ノー・エッジの者です。知り合いからここで話していると聞いて……また聞きに来ました」


「そうか。ありがとう」


 レオは嬉しくなって笑みを浮かべた。しかしエイジはその表情の中に陰りがあることに気付いた。


「何か心配事ですか? 浮かない顔をしているように見えますが」


 レオは核心を突く言葉に心の中を見られているような気がしてドキッとした。


「いや、ちょっと……」


「話してみてください。力になれるかはわかりませんが」


 言葉を濁したレオに、エイジが温かく語りかけた。レオがしゃべり難そうだったので、ミナトが代わりに答える。


「最近、家の周りを不審者が徘徊していて、ちょっと危険なことになってきてるのよ」


「そうなんですか……。レオさんの影響は日増しに大きくなってますし、共生に否定的な連中は、面白くないですよね」


 エイジが暗い顔をした。


「ミナトさんはどうなんですか?」


 エイジに話を振られたミナトも黙ってしまった。彼女もレオを行動を共にしている為、目を付けられて、嫌がらせを受けるようになっていた。


 エイジはレオを見た。


「あなたの演説は、ただの言葉ではない。私たちの願い、その核心でした。人類種を超えて共に生きる未来――それを語ってくれた。あなたはそのために必要な存在です。象徴でも、旗印でもなく、“言葉を語る者”として」


 エイジの声が、低く、しかし熱を帯びて続いた。


 ミナトがエイジをじっと見つめる。その目は、警戒と同時に、彼の言葉の真実性を測るような色を帯びていた。何か魂胆があり、欺こうとしているのではないかと疑っていた。


 その視線に気づいたエイジが、こう答えた。


「ほぼ初対面の人間の言葉を信用できないのは当然です。ですが、我々は、あなたの言葉に動かされて動き出した。だから、あなたが生きて語ることを、なによりも大事に思っています」


 その声には、誇張も芝居もなかった。ただ、ひとつの確かな決意だけが宿っていた。


「あなたの言葉は、私たちの言葉でもある。だから……レオさんとミナトさんを守らせてください。俺たちにできることは、それくらいなんです。ノー・エッジには、まだ整備の途中ですが、潜伏に適した場所があります」


 レオは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。そして静かに頷いた。


「わかった。案内してくれ。きみの思いを信じる」


 ミナトも小さくうなずく。レオの判断に異論はなかった。


 エイジは「こちらです」と手を差し出し、広場を抜ける裏道へと案内を始めた。人気の少ない道を抜け、地下鉄跡を改装した廃棄施設の地下空間へと向かう。


 その途中、エイジは振り返って言った。


「正直に言えば、我々のアジトは万全とは言えません。設備も資源も限られている。けれど、信頼だけは本物です。ここには、対立ではなく“語ること”を選んだ境界人たちがいます。武器ではなく、意思で未来を切り開こうとする者たちです」


 薄暗い通路を抜けると、鉄扉の奥に広がる広間が現れた。改造された旧シェルターの内部には、簡素なベッドと電子機器、備蓄食料などが整えられ、数人の男女が集まっていた。


 彼らはエイジに軽く頷き、レオとミナトを見ると、静かに頭を下げた。


 エイジは言った。


「ここが、ノー・エッジの拠点です。ようこそ。今日から、あなたは“守られる者”ではなく、“共に歩む仲間”です」


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