表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
106/223

第五節 声のかたち 4

 レオは静かに息を整えると、ふっと肩の力を抜くようにして立ち上がった。


 リビングの隅、壁際に置かれた小型の操作端末へと足を向ける。


 その背中を、ソファに腰を掛けたままのミナトがじっと見つめていた。


 レオは手慣れた様子で端末を起動し、素早く画面上の仮想インターフェースを操作していく。


 眼前の空中スクリーンに、いくつもの動画プラットフォームの情報が次々と表示された。


 再生数の推移、コメントの反応傾向、投稿動画の政治的傾向まで、すべての情報が即座に解析され、並び替えられてゆく。


 人工知能による自動分析機能が裏で稼働しており、最も拡散力のあるアカウントが次々とピックアップされていく中、レオはその中のひとつに目を留めた。


「……これだな」


 彼の目が細められ、声に微かな重みが宿る。


 それは「ヴェリタス・アイ」という名のチャンネルで、政府批判や人類種間問題など、社会の深部に切り込んだコンテンツを配信することで近年急速に登録者数を伸ばしていた。


 フォロワー数は一億三千万を超え、動画一本の平均再生数は数千万に達する。


 現在最も影響力のある民間発信媒体のひとつといっても過言ではなかった。


 レオは手元のインターフェースに連絡要求を入力した。


 相手の応答を待つ数秒間が、妙に長く感じられた。ふとミナトが「緊張してるの?」と冗談めかして言ったが、レオは微笑すら見せなかった。


 まもなく、空中スクリーンに通話が接続され、映像が浮かび上がった。


 画面に映し出されたのは、三十代半ばほどの男性だった。


 ぼさぼさの黒髪と無精髭、無地のTシャツに着古したジャケットというラフな格好。


 だがその目は鋭く、受信直後からすでにこちらを警戒する色が浮かんでいた。


『なんだ? 取材希望? 今は政府からの監視が厳しい時期だからな。潜入調査の類じゃないよな?』


「突然の連絡、失礼します」


 レオは頭を軽く下げ、真っ直ぐ相手を見つめた。


「俺は、大川戸レオ。シリウス・ゼノン・アークの実子です。……今の人類社会に必要なのは、断絶の煽りでも、怒りの拡散でもない。ぼくは、共生と融和の重要性を訴えたい。そのメッセージを、あなたのチャンネルで、できるだけ多くの人々に伝えてほしい」


 一瞬、沈黙が訪れた。


 画面の向こうの男が、じっとレオの目を見ていた。


 まるで、彼の言葉の真意を、嘘を、演技を、すべて見透かそうとするかのように。


 その視線はまるで検索ライトのように冷たく、だが経験に裏打ちされた慎重さを伴っていた。


『……言ってる意味はわかる。でもな、最近“シリウスの息子”を名乗る奴は、ネット上に何十人もいる。中には胡散臭い裏があるように思えるようなやつまでいるんだ。あんたが本物だって証拠、あるのか?』


 当然の反応だった。


 レオは頷き、すぐさま手元の端末を操作した。


 彼が準備していたのは、公的機関から正式に取得した統一個体識別コード(UIC)に基づく個人情報データだった。


 UICは、出生情報、親子関係、遺伝的照合を含む情報を厳密に統合管理しており、偽造はほぼ不可能とされている。


 転送されたファイルを受け取った男は、それを開くと即座に真剣な表情へと変わった。


 音もなくスクロールされていく情報の中に、確かに「父親:シリウス・ゼノン・アーク」という記載があった。


 さらに生体認証の照合履歴まで確認し、虚偽の余地がないことを確認するのに、そう長い時間はかからなかった。


『……マジかよ』


 男はしばらく沈黙し、指で額を押さえるようにして呟いた。


『こりゃ……本当に“あの”シリウスの、息子ってわけか。実在するばかりか、堂々と名乗ってきやがった……』


 彼はゆっくりと椅子に腰を落ち着け、真顔のままレオを見た。


『よし。協力しよう。今から撮影するから、言いたいこと、全部話してくれ。編集は最低限にする。政府に削除される可能性があるから、バックアップと同時配信を三系統で走らせる。やるからには最速で、全力でやる』


 その声にはもはや疑念はなかった。プロの情報配信者として、真実に向き合う意志と覚悟が、そこにあった。


 レオは静かに頷いた。胸の奥に押し込めていた緊張が、ようやく少しだけほどける。


「ありがとう」


 彼は画面越しに真剣な眼差しを向けた。


「俺の名前は、大川戸レオ。現生人類でも、超人類でもない。トランス・ウルトラ・ヒューマンでも、機械人類でもない」


 男は微かに笑った。


『……分かった。じゃあ、世界に聞かせてやろうぜ。あんたの声を』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ