第五節 声のかたち 2
やがて、真凛は涙をぬぐい、ミナトに視線を向けた。
「ところで……あなたは、なぜそのような情報を? なぜ、レオのために……?」
その問いに、ミナトはわずかに視線を落とし、答えるまでにひと呼吸を置いた。そして、静かに口を開いた。
「……私もまた、“シリウス計画”の被験体です。正式なコードは“シリウスβ”。レオくんの前段階として生まれた、試験個体です」
真凛の体が、微かに揺れた。目の前にいるこの女性が、自らの息子と同じ「被験体」であるという事実を、すぐには受け止めきれなかった。
「私は……自分の出自を知るため、独自に調査を始めました。そして、統一政府の特務計画部に辿り着き……協力者となることで、情報を引き出したのです」
ミナトの声は淡々としていた。しかし、その奥に滲む決意と孤独は、確かに存在していた。
「今日は、レオくんに真実を伝えるために、ここに来ました」
沈黙が再び室内を支配した。
その中で、真凛はミナトを見つめながら、ゆっくりと言った。
「あなたも……辛い思いをしたのね」
ミナトの瞳が、一瞬だけ揺れた。
その言葉に、彼女は何かを赦されたような気がした。
「レオ、お父さんにはこのこと……話した?」
「まだ……話してない」
真凛は小さく頷いた。
「それでいい。お父さんが退院するまで……今は、そっとしておいてあげて」
「……ああ」
レオは小さく答えた。
そうして、三人の間には、言葉以上の感情が行き交っていた。傷と、赦しと、そして始まりの静けさが――。




