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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第四節 記憶の底層(メモリーズ・イン・ザ・デプス) 2

「……私は……シリウス計画の協力者だった……。そうするしか、真実にたどり着く術がなかった」


 ミナトはまっすぐにレオを見返す。


「真実?」


 ミナトはゆっくりと口を開いた。


「……私は、あなたと同じ。かつて、シリウス計画を行っていた施設で生まれた被験体なの。シリウスβ(ベータ)——それが、私に与えられたコードネーム」


 沈黙が、ふたりのあいだを流れた。風が木の葉を揺らし、外の世界が遠く感じられる。


「シリウスβ……」


 レオがミナトのコードネームを反芻する。


「記録によると、私は現生人類と超人類の遺伝子の掛け合わせに、AIインターフェースに有利に働く遺伝子を追加して作成された半統合型個体で、あなたほど精緻なハイブリッドじゃないみたい。誕生後、能力検査が行われて、失敗作の烙印が押された。処分されることになり、施設も計画を隠蔽する為に閉鎖されることになった。その時、実験に批判的な施設職員が上手いことやって私を外に連れ出してくれて、知り合いの現生人類の夫婦に預けた。私は現生人類として育てられたけど、普通の子では処理できない情報量を短時間で読解できたり、夢の中で実験室みたいな場所が繰り返し出てきたり、血液検査や医療診断で引っ掛かって、異常だと言われるのに、何故か結果が隠される。思春期以降に自分が普通じゃないと強く意識するようになって、両親を問い詰めて、それで計画の一部を知った」


 レオは何も言わず、ただ耳を傾けていた。ミナトの言葉には、飾りも誇張もなかった。


「計画を追って、ようやく辿り着いたのが、統一政府進化政策局特務計画部。私は身元を偽り、彼らと接触し、協力者として入り込んだ。そして知ったの。“シリウス計画”は、まだ終わっていなかった。むしろ、私ではない“本命”がいた。……あなたのことよ」


「俺が本命?」


「ええ。あなたの名前は、そこに記されていた。『完全体・シリウスα』。私の後に作られた、最後の“橋”。私は、あなたの存在を知ったとき、自分の存在が何だったのか、ようやく理解した気がした。……あなたは、私と同じ——でも、どこか、決定的に違っていた」


「違っていた?」


 レオの声は、かすかに震えていた。


「ええ。あなたは、定義できない存在だった。現生人類でも、超人類でも、機械人類でもない。どこにも属さず、すべての境界にまたがっていた。私はただの“試作機”で、彼らが目指した中心点には遠く及ばなかった。でも、あなたには、それがあった。……私は、それが、うらやましかったの」


 言葉を終えたミナトは、静かに視線を落とした。


「私は、彼らに“選ばれなかった”。遺伝子の組み合わせ、神経応答、適応率……すべてが“及第点止まり”だった。あなたのように、各境界の中心点として存在できる可能性は、私にはなかった」


「“選ばれた”……って、そんなふうに呼べるのかな。俺はただ、作られた。それだけだ」


「そうね。でも、それが彼らにとって“奇跡”だった。あなたは、分類不能なまま安定していた。脳は機械との融合時に限界まで能力を引き出せる優れた可能性を保ち、神経系は機械との融合にあいて優れた柔軟性を持っていた」


 ミナトの声は、どこか祈るようだった。


「私はね、レオ。あなたに初めて出会ったとき、自分の存在意義が崩れる音を聞いたの。嫉妬した。苦しかった。憎らしかった」


 レオは初めて見かけた時、ミナトに睨みつけられたことを思い出した。あの時の鋭い視線と敵愾心は、それが原因だったのかと納得した。


「……でも、同時に、あなたが生きていてくれて、本当に良かったとも思った。私と同じ、シリウス計画の被験者で、犠牲者でもあるあなたが……」


 レオは黙ってミナトを見ていた。言葉はない。ただ、彼の瞳が、そのすべてを受け止めていた。


「だから、私はあなたを見張った。特務計画部から監視の指示が出ていたことは事実だけど、あくまでも、自発的にやっていた。守りたかったの。計画のことを何も知らずに生きていたあなたを」


「俺を……?」


 レオは思わず問い返す。


「ええ。あの計画を知ったときから、私は、ずっと思ってた。彼らが再びあなたを“回収”するつもりなら、私はそれを止めなくちゃって。……たとえ、彼らを全て敵に回しても」


 沈黙が、部屋を覆った。けれど、それは不穏なものではなく、むしろ静かな理解の予感を孕んだ沈黙だった。

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