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生成AIが紡いだ小説 混ざり者レオの物語  作者: 月嶋 綺羅(つきしま きら)
第六章 新たなる人類の夜明け――境界に立つ者たち
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第四節 記憶の底層(メモリーズ・イン・ザ・デプス) 1

 レオは帰宅した。真凛は自我移植手術を本格的に検討し、手術に備えた身体作りをするようになってから、定時で帰って来るようになった。


 まだ勤務時間中だった為、誰もいない自宅は寂しげな静寂に包まれ、湿り気を含んだ澱んだ空気が静かに漂っていた。


 室内着に着替え、簡単にコーヒーを淹れた。苦味の残る一口を飲み下ろし、レオはリビングのソファに身を沈めた。


 目を閉じると、今日の出来事が静かに浮かび上がってくる。――あの司書の言葉。


 部屋の照明が自動的に明るさを調整し、夜の訪れを告げた。


 窓ガラス越しに見る夜の飛霞自治州の上空には、鈍く光る薄雲がたちこめていた。都市の明かりはその雲に乱反射し、地上にはどこか不安定な光と影の交差が生まれていた。


 突然、空間モニターが警告もなく立ち上がった。通常ルートを経ていない、制御外の接近者が自室玄関に達している。


 レオは眉をひそめ、非常回線に繋がった監視映像を呼び出す。


 玄関ホログラムに映し出されたのは、フードを深く被った人物だった。認証システムは作動せず、名前の表示も出ない。だが、その顔の一部が、フードの隙間から不意に覗いた。


 ——見覚えがあった。いや、見間違えるはずがない。


「ミナト……?」


 その瞬間、映像越しに彼女の唇がわずかに動いた。


「……開けてくれる?」


 低く抑えた声。それは微かに震えていたが、決意に満ちていた。


 レオは静かに玄関のロックを解除し、ドアを開けた。


 外の冷たい空気とともに、フードを深く被った影が立っていた。ミナトは一歩も動かず、ただレオを見つめていた。


 その視線には、懐かしさも、安堵も、決意もあった——そして、わずかに怯えが混じっていた。


「……中で話せる?」


 彼女の声は低く、だが震えてはいなかった。


 レオは一瞬だけ目を伏せ、それから小さく頷いた。無言でドアを開け放つと、ミナトは軽やかに、しかし足音を立てないようにして中へと滑り込んだ。


 玄関が閉まる音が、密やかに響いた。


 ミナトは何も言わずに靴を脱ぎ、レオに案内されてリビングの隅にあるソファに腰を下ろすと、フードを脱いで少しだけ背を丸める。


「……ここ、落ち着くわね。変な意味じゃなくて」


「余計な物がないだけさ。落ち着くってより、何もなさすぎるって、うちを訪ねてきた人達はよく言う」


 レオは温かいインスタントコーヒーを二つ手にして戻ってきた。ミナトの向かいに座ってカップを差し出すと、ミナトはそれを受け取り、小さく礼を言った。


 ミナトは一口飲んだ後、少しの間、カップを両手で包み込むように持ってじっとした。その後、カップをテーブルに置き、持ってきたトートバッグから黒い通信端末を取り出し、レオの前に置いた。


「これが何か、わかる?」


 低く抑えた声の奥に、かすかな焦燥が滲んでいた。


 問われたレオは、無言のまま首を振った。


「今日まで私が集めてきた、シリウス計画の全てのデータ」


 ミナトの口調には、これまでにない重さが宿っていた。


「シリウス計画って、あの、俺の父さんと母さんが協力したっていう、例の計画のこと? 何故君が知ってる?」


「あの計画には世間が知っている表向きのものと裏向きの真の計画の二つがある」


 ミナトはレオの問いには答えず、計画の実態について語り始めた。


「シリウス計画は……表向きには、全人類種の共存共栄を謳ってる。でも、実態は違う。全人類種を超える“新たな種”を作り出して……すべてをその種のもとに統合しようとする計画なの」


 ミナトの声は真剣そのものだった。迫力もあり、強い危機感が伝わってくる。


 しかしレオは話の突拍子のなさに俄かには信じられなかった。


「待ってくれ。話がさっぱりわからない」


 ミナトが詳しい説明を始めた。


「統一政府の中に人類種別の官僚派閥、政治家の派閥があることは知ってるよね?」


「流石にそれは知ってる」


 レオが相槌を打つ。


「機械人類が登場したことで、能力的に圧倒している彼らが4つの人類種の中で最も強くなり、それまでトップの地位にあったトランス・ウルトラ・ヒューマンの派閥は凋落した」


「それも知ってる。機械人類が出て来てから、4つの人類種間でどの人類種が頂点に君臨するのか、機械人類とトランス・ウルトラ・ヒューマンとで激しく争ってるってあれだろ?」


「ええ。そうよ。しかし、トランス・ウルトラ・ヒューマンの派閥が劣勢を強いられていた。そこで彼らが考え出したのが、シリウス計画なの」


 レオは理解して頷いた。


「それはわかった。でも、どうしてそれが俺と関係するんだ?」


「彼らは、生身の人間と機械とを融合させた時に、機械の能力をより限界に近いところまで引き出せる人間を、徹底した遺伝子編集で作り出した。それがあなたなの」


 レオは一瞬、言葉を失った。そして狼狽した。


「そんな。父さんと母さんは、同意して俺を実験台として作ったってことなのか?」


「それは違うわ」


 ミナトが言下に否定した。


「あなたの父親はアンドロイド。アンドロイドの外見、能力値を再現する為の形質を持った遺伝子を組み合わせてDNAを作れば、必然的に、融合させた時に、機械の能力をより限界に近いところまで引き出せる人間を作ることができる」


「じゃあ父さんと母さんは、本当の目的を何も知らされずに、騙されただけなんだな?」


「ええ」


「よかった……」


 レオは安堵した。


「父さんも母さんも、俺を作る際、二人に似せて作った、使用されている遺伝子は人間由来のものだけだと言っていたから、何かおかしなことがされていたわけじゃなかったんだな」


「安心するのは早い。シリウス計画を進めていた進化政策局特務計画部は、すでに“特定種の人類”以外を排除する準備に入ってる。共生とは名ばかり。現生人類も、超人類も、機械人類も、すべて“選択”の対象にされる」


 ミナトが淡々と語った。


 レオは疑りの目をミナトに向けた。


「きみは一体、何者なんだ?」


 レオは問いかけながら、ミナトを見つめた。ミナトの瞳には、冷淡さではない、人間的な揺らぎがあった。

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