悲しみの歌 3
そこは、加奈が想像していたよりも、閑散としていた。
人はいる。
店はある。
しかし、そこはまるであの頃の田舎のシャッター街を思わせるような光景だった。店はあるけれどポツポツと点在している程度。その半数も開いてはいない。当然というか、通りを歩く人も少ない。
なんとなく、肩と肩がぶつかり合うような賑わいを勝手に想像していた加奈は拍子抜けしていた。
そんな中、ファーリーは俯きながら進む。加奈は彼女に従って前に歩を進めた。
しばらくすると、ほんのり灯りのついた店の扉をファーリーがゆっくりと開けて中に入ったので、加奈はその後に続いた。
服屋だった。
色鮮やかというわけでもなく、これから寒くなる季節に合いそうな暖かそうな服が並べられていた。
店員は、当たり前だがいた。とはいっても、部屋の片隅の椅子にぼぉーっと座っている。二人が入ってきたことに気づいているのかさえ怪しい。
ファーリーがいくつか値段を確認しながら手に取った。少し首を傾げながら見るからに暖かそうな服2つを手に取って加奈を見上げた。
加奈が迷いながら右の方を指さすと、ファーリーは頷いて、店員の方へ持って行った。
特に会話を交わしことなく、ファーリーが店員にお金を渡すと店員は黙って袋に服を入れて渡した。
袋を受け取ったファーリーと店を出ながら、加奈は違和感が拭えなかった。
買い物ってもっと楽しいものじゃないの?
あの頃もそんな余裕なんてなかったけれど、教室の中、そこかしこで聞こえる楽しげに聞こえる会話に少しばかり憧れていたのだけれど。
ここには、加奈が憧れたあの要素はひとつも感じることがなかった。
同じように、別の店に入って、また特別店員と会話一つ交わすことなく、暖かそうな布団をひとつ購入。
やや嵩張るその荷物を落とさないように加奈が両手で抱えると、上はフード、下は荷物でかなり視界不良となった。
その加奈の服をファーリーが握りしめて、2人は帰路についた。
気分はショッピング楽しかったね、とかではなく、例えるなら、ミッション終了?
それはそうとして、また、いつもの日々に戻る。
これから来る寒さがどれくらいのものかわからないが、きっと今日買ってもらった服と布団で乗り切れるだろう。
これからまたファーリーと2人、あの日々を繰り返す。いつまで続けられるか不安はあるけれど、それはそれで悪くない。
そこには、加奈が歌うことを咎める人はいないのだから。
うん、あの家に帰ろう。
来る時よりも軽い足取りで2人は…。
あと少しで整備された道が終わり、少ないながらもポツポツといた人の姿が途切れそうになった時、それは起こった。
ビューっと突如として強い風が吹き、ファーリーが伸ばした手が間に合わず、ファーリーのフードが外れてしまった。
ファーリーが慌ててフードを被り直す。
コツン。
何処からか石が飛んできてファーリーに当たった。
近くにいた男が、憎々しげにこちらを見ていた。手には小さな石を握りしめている。
それを見て、近くの女もファーリーを見て、顔色を変える。そして、彼女も道端の石を拾って振りかぶる。
そして、また近くの人も…。
ファーリーは加奈の服を握りしめたまま走り出した。
加奈もつられて走ったが、いかんせん視界が悪い。思わずフードを外そうとしたら、ファーリーから「外さないで」と声が飛んだ。
しばらく走ったら、息が切れた。
「もう、ムリ…」
そう言うと、ファーリーは止まってくれた。
追いかけてくる気配はないことにホッとする。
家まであと少し。
息は上がったままだけれど、不安そうに見上げてくるファーリーを見ると、ここで休憩、という気分にもならず、加奈は歩を進めた。