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はじまりの歌 1

 そっと、そっと口ずさむ。

 樹々の揺らぎを、花の爽やかさを想像しながら。そこで過ごす幸せを祈りながら。



「静かにして!」

 機嫌の悪さを全面に出したその声に、慌てて口を閉じた。


 しまった。いつのまにか帰って来ていたのか。そして、いつのまにか声が大きくなってしまっていた?

「まったく…いつもいつも…あんたのその変な声を聞かされるこっちの身にもなって欲しいわ」

 テレビの音量を必要以上に大きくして、彼女はブツブツと文句を続けた。

「おかげで具合まで悪くなってきたわ。どうしてくれるのよ…」



 すみません。

 本当にごめんなさい。

 でも、歌いたいんです。

 だけど、歌うべきではありませんでした。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。

 枕に顔を押し当てこぼれ落ちる涙を吸わせているといつしか意識を失っていた。



 そして、意識を取り戻した時、一面の草むらの中に寝転がっていた。

「夢?」

 うん、きっとそうだ。

 なら、我慢しないでいい。

 私は力一杯歌った。


 **********


 いつものように、森の中に食料を探しに来たファーリーは、目の前の光景に驚愕した。

 ほどほどの木の実が採れたし、いつもの草むらでゴロンとひと休憩してから帰ろうと思っていた。それなのに、そこは草むらではなかった。


「うわぁっ!」

 思わず感嘆の声をあげる。

 昨日まで、確かにそこは草むらで、緑が広がる中に、小さな草花がちょこちょこと顔を出しているくらいだった。それが今では…。


 ファーリーは、色とりどりに咲き誇る花畑に恐る恐る歩み寄った。

 ファーリーが触れれば、鮮やかに咲いたピンク色の花が揺れ、花を近づければ爽やかな香りがして、それが幻ではないことを知らしめた。


 そっとそっと、花を傷つけないようにファーリーはかき分けながら花畑の中を進んだ。その先にはきっとファーリーのお昼寝道具があるはずで…。



「あっ!」

 そこには、ファーリーがいつも使っているブランケットを掛けて気持ちよさそうに眠る少女がいた。

 少女は見たことのない容姿をしていた。

 多分、雰囲気的にファーリーよりもちょっとお姉さん。でもひょろっとしていてその細い身体の上に腰くらいまで伸びた艶やかな黒髪が広がっていた。着ている服もどんなふうに裁断や縫製されているのかファーリーには想像つかないが、シンプルながらもどこか着心地が良さそうに感じた。


「ちょっとだけ…」

 ファーリーはそっと少女の上半身を覆う服に手を伸ばした。



「んっ?」

 少女の身体が動き、ファーリーは慌てて手を引っ込めた。

 ゆっくりと目が開く。

 切れ長の瞳の中にも深い黒色の世界があり、ファーリーは思わずどこかに引き込まれそうな錯覚におちいり慌てて目を逸らした。


「こんにちは」

 とりあえずまずは挨拶、とファーリーは緊張しながらも精一杯の笑顔を浮かべてそう言ったが、少女から挨拶は返ってこない。ただ首を傾げるばかりである。


 ファーリーは、聞こえなかったのかな、と思って今度は少し会釈をしながらもう一度、こんにちは、と声をかけた。

「×※∇⁂?!」

 なんと言っているのか分からない言葉が少女の口から出てきて、ファーリーは思いっきり首を傾げた。

 音の響きもアクセントもこれまでファーリーが聞いたことがないものだ。ただ、彼女は怯えているように見えた。


 ファーリーは自分を指差して、ファーリー、と伝えた。少女が首を傾げたので、もう一度繰り返す。

「…ふわりぃ…?」

 少女が不安そうにそう口にした。ちょっと違うな、と思ったが、まぁいいか、とファーリーは頷いた。ファーリーは、少女に右手を向けた。

 彼女はしばらく考えていたが、やがて、カナ、と口にした。

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