コンビ復活
お姉ちゃんにアルティメットのことを切りだせたので、いつになく気分は上々だった。
つばめはまだ戻ってこないが、もうどうでもいい。
捨てていこう、と思っていたら、つばめがやけに興奮しながら超絶ダッシュで戻ってきた。
「見て、見て、アリサっ! 神っ! マジで神っ!」
いったい、なんのこっちゃと思って、つばめの手元を見た。
サイン色紙に、つばめをデフォルメしたと思しき眼帯美少女が描かれていた。
ご丁寧にも色まで塗られていて、永久保存版の美麗っぷりだった。
片目は赤く、髪は青い。私は「お姉ちゃん大好きっこ」であるらしいが、それを言うならば、つばめは「自分大好きっこ」かつ「二次元大好きっこ」である。
二次元美少女と化したつばめは、さぞご満悦で、お土産にハバタキ制作アニメの原画集までもらっていた。うきうきとスキップなんかしちゃって、浮かれっぷりは史上最高潮だ。
「持つべきものは友ですね、アリサたん」
カフェを出たとたんに、いきなりハグしてきたかと思ったら、キスまでしようとしてきた。
女同士でふざけて胸を揉み合ったり、キスしたりなんかは女子校ではありがちなことだ。
実のところ、ファーストキスの相手はつばめであったりするのだが、そういうお遊びをしていい場所と、そうでない場所の区別ぐらいはつけなければならない。
その点、つばめはいろいろ危うい。
眼前に迫ってきた唇を両手で遮り、浮かれた女を引き剥がす。
「ふざけんな。あんた、プリンを一口もくれなかったじゃん」
食べものの恨みは恐ろしいのだぞとブチ切れてみせると、つばめが珍しくシュンとした。
「怒ってる?」
「怒ってる。すげー怒っている」
仲直りとばかりにべたべたひっついてきたが、軽く舌打ちして、手を振りほどく。
宇宙的ダンス部のおバカさんは自分勝手に踊っているだけで、人の笛では踊らない。
真正面から「アルティメットをやろうよ」なんて頼んでも、聞く耳はない。
どこにカーブするかもわからない、風任せの風見鶏を意のままに扱えるとしたら私ぐらいだ。
「ごめんちょ。こんどクリームパンおごるから。とくべつにメロンパンもつける」
購買部のパンで懐柔してきて、ちょっとだけ心が揺れた。
しかし、ここは心を鬼にして、冷ややかに言い放つ。
「そういう問題じゃないの」
「どういう問題?」
つばめは唇を尖らせて、そろそろ逆ギレしそうな予兆があった。そろそろかな、と思い、
「せっかくダンスがうまいのに、だれも見ていない屋上でやることないじゃん」
「そーだけど、他にいい場所ないしさあ」
聞く耳のなかった耳が、ぴこんと立った。つばめのダンスの腕前がどの程度かは知らないが、おだてておけば木に登る。空だって飛ぶし、魔力だって使うかもしれない。
「あるよ。究極の場所が」
「どこに?」
「知りたい?」
勿体ぶると、つばめがじれったそうに身をくねらせた。
「どこどこ?」
「そういう場所を作ろうと思ってるけど、つばめはどうする? ずっと屋上で踊ってる?」
「なに、アリサもダンスしたいの」
理解力が足りなくて辟易するが、ぐっとこらえた。
「ひとりで踊ってないで、私と踊れってこと。私とチーム作ろうぜってこと」
「なんだ、そーいうこと」
「そういうこと」
つばめは、にやにやしながら「コンビ復活かあ、どうしようかなあ」なんて言っている。
「言っとくけど、私がやりたいのはバスケでもダンスでもないから」
「じゃあ、なにやるの?」
先頭を歩くお姉ちゃんの背中を見ながら、つばめの腕をぎゅっと握った。
「だから究極だよ。アルティメットをするの」